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1998年のフランスW杯以来、5大会連続でW杯に出場しているサッカー日本代表。日本代表は現在、6大会連続出場を目指し、2018年ロシアW杯の最終予選を戦っている。W杯初出場がかかった大事な試合でゴールを決めた男と言えば、野人・岡野雅行。
ガイナーレ鳥取で現役を退き、現在、J3で戦うガイナーレ鳥取のGMとして戦い続ける岡野さんに、あの“ジョホールバルの歓喜”を振り返って当時を語っていただきつつ、自身のサッカー人生や、今の代表に思うこと、ガイナーレ鳥取に賭ける想いなどをお聞きいたしました。
第5回目は、世界のサッカーを知った岡野さんが、今の代表に思うことを語っていただきました。
岡野雅行(おかのまさゆき)
1972年生まれ。日本大学3年時で中退し、1994年に浦和レッドダイヤモンズ入団。超快速FWとして脚光を浴び、プロ入り1年目にして日本代表に招集された。1997年のフランスW杯予選のアジア第3代表決定戦となるイラン戦では、日本初のW杯出場となるVゴールを決めた。2001年にはヴィッセル神戸に移籍するも、3年後に浦和レッズへ復帰。Jリーグ、天皇杯、アジアチャンピオンズリーグ制覇など、黄金期を築く。2009年に香港リーグでプレーした後、当時JFLのガイナーレ鳥取に移籍。翌シーズンのJ2昇格に貢献した。2013年シーズン終了後、現役引退と同時にガイナーレ鳥取のGMに就任。著書に『野人伝』(新潮社刊)がある。
——移籍は実現しなかったけれども、アヤックスの練習に参加したり、代表での経験から、日本選手はうまいけれど、フィジカル面で通用しないと感じたんですか?
そういうことですね。日本サッカーの理想は技術面では高いんですよ。ボールをキープしながらパスを回して、駆け引きをしながら相手の裏を取ればいいんだっていう。でも、世界基準では、細かい駆け引きをしていたら、怒られますからね。そんなヒマないぞ、と。
アヤックスの練習に参加しているときに、リトマネンにも怒られました。「サイドでちょろちょろ駆け引きするなんて、オレを信じてねえのか!」って。「お前は足が速いんだから、走れば必ずオレがパスを出してやるから。ただ、走ればいいんだ。でも、オフサイドだけは気をつけろよ」と。
それで、オフサイドにだけ気をつけて走っていると、本当にものすごいパスがピタリと出てくる。
そんな感じで、今までやってきた日本サッカーの概念が次々と覆っていった。
僕は日本では、スピードはあるけれど、頭の悪い選手だって言われていたんですよね。
なぜかと言うと、ただ、走るだけだから、と。ところが、アヤックスに行くと、真逆の評価になるんです。「お前は一番、頭がいい」と言ってくれる。なぜなら、ゴールに向かって最短距離を、しかも誰よりも速く走れるから。
そこが、世界基準のサッカーと日本サッカーの違いだった。サッカーというのは、ゴールを奪うためにやるスポーツです。パスは相手を惹きつけるためだとか、ゴールに向かうためにやるもの。なのに、ただ、パスを回しているだけではゴールは奪えない。
欧州では、「パス一発でゴールまで行けるんだったら、一発で行けばいんだ」という考えです。「お前はパス一発でゴールまで行ける。それはひとつの才能だ。みんながそれを目指しているというのに、お前はそれができる」と褒めてもらえて、すごく嬉しかったですね。「エクセレント!」って何度も言ってもらいました。
——バルセロナに代表される、常にボールをキープすることで主導権を握る戦術、いわゆる「ポゼッションサッカー」が注目されることもありました。
バルセロナのサッカーは、勝っているときなら、5回くらい相手をおちょくってからシュートするみたいなプレーをしますが、それを日本代表がマネしようとしても、絶対にできないんですよ。
バルサの選手たちはたぶん、個の力で数人を抜き去ることができる選手ばかり。そういう凄い選手の集まりですからね。イニエスタなんて、3人くらいに囲まれようと、ほとんどボールを取られないじゃないですか。
そんな選手が集まっているからこそできるプレーを、指導者が小学生にも教えようとしても、そんなプレーは滅多にできるわけがない。そこで、ドリブルは禁止にして、ツータッチ以内でパスを回せなんてやっているけれども、そんなことばかり教えていたら凄い選手は出てこないでしょう。
メッシなんかでも、小さい頃から、しゃにむにボールを追いかけて、ボールを奪ったら、果敢にドリブルしてチャレンジしていたと思うんです。1人で数人相手にドリブルで突破するといったチャレンジを小さい頃からしていかないといけないし、その積み重ねがなければ、フィジカルも強くならない。
そこに今、ようやく指導者たちが気づき始めていて、変えていかないといけないと言われるようになってきたんですよね。
——従来の指導では、スゴい選手が出てこないということですか?
結局、これまでの方向性の指導だと、重要な局面で個の力で勝負できる選手が育たない。パスがうまい選手はどんどん育っていますが、それだけでは点が入らないですからね。やはり、世界を見れば、個の力で勝負できる選手がたくさんいるじゃないですか。
バルセロナなら、パスを回して主導権を握りつつも、最後のところでメッシがドリブルで切り込んでいく。レアル・マドリードなら、クリスティアーノ・ロナウドが、バケモノみたいなプレーをする。
だからこそ、その前段階のパス回しが活きてくると思います。
日本サッカーの場合は、パスを回しているだけで、ゴール前を固められたら終わり。早いタイミングでアーリークロスを入れるなんてやっていても、突出してフィジカル的に強い選手がたくさんいるわけでもないので、なかなか点が入らないことのほうがが多い。
そういう意味では、ドリブルで突破していく原口(元気)なんかはだいぶ、代表でも頑張って注目されだしましたが、彼のように個の力でゴールに向かっていく選手がどんどん出てこないと、絶対に世界の強豪相手を切り崩すことさえできないですよね。
もちろん、サッカーにおいて技術を磨くことは大事なことですが、そこだけやっていてもしょうがないんだということを、欧州に行って学びました。
——中田英寿さんが岡野さんのことを「規格外の選手だ」と言っていました。岡野さん自身が言うように、まさにご自身がバケモノ的な選手だったと思いますが、そういった匂いを感じる選手というのは、今の日本代表にいますか?
今の代表にはいないかもしれないですよね。僕らの世代に比べると、選手全員が本当にうまいですし、サッカーのレベルは確実に上がっています。でも、やっぱり、誰が出てきても同じなのかな、といった印象があります。
見ていると、キレイなパスを見事に回すじゃないですか。でも、繰り返しになりますけど、最後にゴールを仕留めるために、“何か”が欲しい。何と言いますか、“違うリズム”を作れる選手が必要なんだと思います。リズムをふっと変化させてから、決める。そういう変化をつけられる選手が出てくると、世界の強豪ともっと戦っていけるようになると思います。
本田(圭佑)なんか、本当にうまいし、ミドルシュートも強烈で、フィジカルも強い。でも、見ているとアクセントにはなるんだけれども、リズムを変化させるまでには至らない。そこにまた、本田とは全然違う個性、何かに飛び抜けた才能を持つ選手がもっと出てくると、相手も守れないんじゃないかな、と。
今の日本代表は、以前の代表に比べたら、ゴール前までの崩しは完璧です。だけど、最後のところで手詰まりになってしまって、ミドルシュートを打つとか、アーリークロスを上げるけれども、なかなか得点に結びつかない。
そう言う意味では、原口とか、宇佐美(貴史)のようなドリブルでどんどん仕掛けていける選手がもっと成長していくことができれば、かなり強くなるのではないかと思います。
今でもけっこう強いとは思いますけどね(笑)。ただ、世界の強豪国に勝つためには、そういったところをもっと強化していくべきだと思います。
——3月23日のUAE戦アウェーから、W杯最終予選の後半戦がスタートしますが、これまでの日本代表の戦いについては、どう感じてらっしゃいますか?(注:3月23日以前に取材)
ジョホールバルの時に比べれば、全然、問題ないと思います。ちょっと前に、自分たちがフランスW杯の最終予選の時の流れと重ねて見てみたことがあるんですよ。初戦のホームUAE戦を落として、日本代表はピンチと言われていましたけど、「僕らの頃に比べれば、全く問題ないね。」といった話をしたことがあります。
僕らの時は、折り返し時点で4位でしたから。アジアの強豪国であるイランが上にいるし、韓国は独走状態で首位だし。韓国はほぼ決定の状態で、第3代表決定戦に出るためには2位にならなければならない状況なのに、4位という厳しい状況。それに比べたら、大丈夫でしょう。
ここからっていう感じだと思います。
ただ、後半戦はUAE、イラク、サウジアラビアの順番で中東のアウェー戦が続くので、油断はできませんよね。もう、内容なんてどうでもいいんです。とにかく勝つことが大事だと思います。勝ち点3を積み重ねていけば、このまま2位以内確定でW杯に出場できるわけですから。
ホームでの試合を決して落とさないようにして、中東のアウェー戦を大事にして、勝ち点をしっかり積み重ねていけばいい。実力を発揮すれば、ホームで負けることはないはずです。
とはいえ、初戦のホームでUAEに負けたときはビックリしましたよね。こんなことが起こってしまうのが、最終予選の怖さなんだなあと、改めて思いました。そういう意味では何が起こるかわからないので、大丈夫だと言い切るのも、あまり良くないのかもしれませんが(笑)。
——フランスW杯の最終予選に比べれば、問題なさそうでしょうか?
さすがにホーム初戦でUAEに負けた時は、厳しいと思ったんじゃないですかね。
——今回の最終予選を振り返ってみますと、2戦目でタイとのアウェー戦で2−0で勝利。3戦目はイラクとのホーム戦で同点で終わりそうだったところ、ゴールを決めて2-1で辛うじて勝利。4戦目でオーストラリアに乗り込んで1−1の引き分けでした。5戦目は首位とサウジアラビアとのホーム戦で2−1で勝利。これで、勝ち点10とサウジアラビアと並び、得失点差で2位という状況です。
オーストラリアに引き分けといっても、アウェーですから、まずまずですよね。前半戦、最後の試合は首位のサウジアラビアをホームで迎え撃って、勝ち点で並んで得失点差で2位。そう考えると、僕らの頃に比べたら、順風満帆と言ってもいいかもしれません。ぜんぜん、地獄じゃないですよね(笑)。
僕らのときは、最終予選に入って、初戦はウズベキスタンにホームで快勝したものの、2戦目でUAEにアウェーでスコアレスドロー。さらに、3戦目で韓国のホーム戦で逆転負けしてしまって、それ以来、ぜんぜん勝てなくなってしまいましたから。
ようやく勝てたのが、後半戦開始後の第7戦の韓国のアウェー戦。僕らみたいな戦いをするのは、本当に地獄なので、早めに勝ち点を積み重ねて、W杯出場を決めてしまったほうがいいんですよ。なぜなら、W杯出場が決まるのが早ければ早いほど、W杯に向けてどういったサッカーをするのかといったことを試行錯誤しながらチーム作りができますから。
今はたぶん、みんなそれどころじゃないと思うんですね。とにかく、最終予選を勝ち抜いて、W杯に出場するためにはどうすべきかといったことで頭がいっぱいですから。そこから早く脱して欲しいとは思いますが、何が起こるかわからないのが最終予選ですから。
——W杯最終予選の後半戦に向けて、日本代表に期待することなどありますでしょうか?
ジョホールバルのような地獄の経験は二度としたくないって散々、語ってきていますが、やっぱり、ドラマチックにW杯出場を決めたほうが、盛り上がると思うんですよね。ということで、また、プレーオフまで行くと、盛り上がっていいんじゃないかと思います(笑)。
これは冗談ですけど(笑)、熱心なサポーターの方たちを含め、日本中のみなさんが、サッカー日本代表は、W杯に出て当たり前みたいな感じなってしまっているじゃないですか。
W杯でどこまでいけるのかといったことにばかり興味がいってしまっていますが、最終予選を勝たなければ、W杯には出られないということを忘れてしまっているかのようです。
でも、今回みたいに初戦のホームで負けてしまったから、心配になってちゃんと応援しようと中継も観るようになった。だから、決して、意図してできることではないのですが、そういったギリギリの戦いを演じるようなことになったりすると、また日本サッカーが盛り上がるんじゃないかなっていう気持ちもあるんですよね。
刺激がないと言うか、W杯に出ることが当たり前のことになってしまっているので、この状況は良くないんじゃないかと思うこともあるんです。
何が起こるかわからない予選があるからこそ、W杯の最終予選が盛り上がる。さらに、崖っぷちになってしまったら、日本のみなさんがもっと必死になって代表を応援してくれんじゃないかな、と(笑)。
こんなことを言うと、今の代表メンバーに文句言われそうですけど、盛り上げるという意味では、いいんじゃないかと思ったりもします。(注:日本がBグループの2位以内に入れなかったとして、ギリギリ3位だったら、Aグループの3位のチームとアジアプレーオフを戦い、勝利したチームが北中米カリブ海予選4位チームと大陸間プレーオフを戦う)
——そうならないことを祈りたいのですが……。
W杯で世界と互角以上に戦う準備をするには、もちろん、早く決めたほうがいい。だから、後半最初のアウェーのUAE戦が大事ですよね。最初のホーム戦で負けてしまったわけですから。ここで引き分けるとか負けることになってしまうと、マスコミにも騒がれてしまって叩かれるでしょうし、それでチームの雰囲気も悪くなってしまいます。
中東のアウェー戦は厳しいものがありますが、それでも何とか勝利できれば、2戦目はホームでタイ戦ですから。ホームでタイに負ける可能性はあまりないと思うので、初戦で勇気を持って戦えば、W杯出場は見えてくるのではないかと思います。
——個人的に期待している選手はいますか?
やはり、原口(元気)ですね。けっこう、オレがオレがっていう感じで自分のプレーを主張する選手なので、期待したいですね。実際のチームの雰囲気を見ていないので、何とも言えない部分もありますが、今の日本代表の試合を見ていると、どうもみんなが本田に遠慮しているんじゃないかなっていうふうに思えてならないんですよ。
そんななかでも、原口なんかは、けんかっ早い性格と言いますか、「関係ねーよ、オレ行っちゃうよ!?」といった感じの気の強さを持った選手なので、いいんじゃないかと。原口がああやって台頭してきたからこそ、本田をはじめ、他の選手も活きてくるといったこともあると思います。
調子悪いときは、最後のところでみんなパスばかり選択しているといった印象がありましたけれど、そこを原口が変えていった。少々、強引だったとしても自分でシュートを打ったり、仕掛けたりもしていますから。
ゴールへの最短距離を行こうとするプレーに徹しているし、勇気を持ってチャレンジしていると思います。そういう部分で日本代表が非常に面白い感じに“化学変化”を起こしているんじゃないかと思うので、彼には期待したいですね!
取材・文:國尾一樹
撮影:リズム編集部
写真提供:ガイナーレ鳥取