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早稲田ラグビー蹴球部元監督の中竹竜二さんのインタビュー。後編では、「リーダーとは」といった、概論的な内容に触れていきます。まずは、あなたの周りにいるリーダーや、あなたの考えるリーダー像を思い浮かべてみてください。中竹さんの考える新しいリーダーの定義に、今の組織を変えるヒントが隠されています。(早稲田ラグビー・元監督、意外な青春時代【中竹竜二さんインタビュー前編】より続く)
中竹竜二(なかたけりゅうじ)
日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター、株式会社チームボックス代表取締役CEO、一般社団法人ウェルチュアラグビー連盟副理事長。2006年早稲田大学ラグビー蹴球部で監督を務め、全国大学選手権を2年連続で優勝へと導く。2010年に監督を退任後、同年、日本ラグビーフットボール協会にてコーチングディレクターに就任。現在は、組織マネジメントのメソッドをビジネス界にも広めるなど、活躍の場はスポーツ界にとどまらない。
——中竹さんは会話のはしばしで「普通な私」など、自分は普通だという趣旨の発言をされるのですが、何をもって“普通”なのでしょうか?
いや、普通なんていったら怒られますね。私は能力的には普通以下だと思ってます。
——またまた、そんな。
面談の中でもよく言うんですが、一流は一流で輝くべきです。でも、二流は二流、三流は三流でやるべきことがある。一流が偉いとかじゃなくて、これは個性なので仕方ないんです。でも、ぐーっと伸びている選手ほど、勘違いします。自分を“一流”だ、と。
——まだ、成長している過程なのに、ですか?
そうです。最近活躍しているなって思うと、「俺は一流だ!」って。私から見ると、本当にショボくて努力によってようやくここまで来たっていう部類の選手なんですが、ついつい勘違いします。そこで、その選手に尋ねるんです。「お前何流だっけ?」って。
そうすると意外と謙遜して、「そうですよね、俺、二流ですよね」っていうから、「いやいや、お前、三流だよって」(笑)選手にはムカついた顔をされますけど、私はこう伝えます。
「お前は、今までコツコツ階段登ってきたのに、パッと横見たらエスカレーターが並んでいるの見つけて、そこに飛び乗ろうとしてる。それって勘違いだよ」と。これって、過去の自分を否定しているような行為です。成果を挙げると能力が上がったと思いがちですが、自分がどれだけの資質を持っているかを勘違いしないほうがいいです。
——中竹さんは、ポリシーのようなものをお持ちですか?
1つはリーダーがどれだけ学ぶか、ですね。例えば、コーチなら選手を成長させることを考えがちですけど、コーチングする側がどれだけ学ぶかが大事だと思っています。
もう1つは、人のせいにせずに自分の責任だと思えるか。能力の低い人がいたとしても、自分の責任。怒ったりもしない。すべてが自分の責任です。とくに、このことをみんなの前でも素直に言えるようにしています。「私の責任です」と。
これを徹底しているからか、実は部下からは「竜二」と呼び捨てで呼ばれています(笑)。「いい加減にしろ」と、部下に叱られることもしばしばですね。
——“学ぶ”というワードが出ましたが、中竹さん、現在学びたいことはありますか?
それで言えば、今すごく興味があるのはプログラミングですね。私が最も苦手な領域です。でも実は、プログラミングができるようになりたいわけではなく、プログラミングのベースになる考え方を学びたいんです。
エンジニアの方などに話を聞いていると、私がずっとやってる社会学とすごく似てるという感覚があって。私の考える組織づくりとも、原理原則が似ているようなんです。社内にもプログラミングができるスタッフがいるので、来年は定期的に勉強会なども開いて、プロに教えてもらおうと思っています。
——年齢を重ねると、知らないことは恥ずかしいと思いがちですが、中竹さんはそういうものは全くないですよね。
ないですね。学ぶ意欲も結構高いですし、純粋な好奇心も強いというか。恥ずかしいと思っていてはもったいないので、いかに「わからないよ」「俺、ダメだよ」って晒していくかが勝負だと思ってますね。「こんなのもわからないの?」と、人から言われるくらいでちょうどいいです。
——組織マネジメントを行う中で、今の時代はやはり、リーダーという概念が変わる転換期なのでしょうか。
そうだと思いますね。そもそも、私は100人いれば100通りのリーダーが存在すると思っています。でも、大事なのはきちんと自分に合った服を着ているか。リーダーになると、多くの人が“いい服を着よう”とするのが問題です。
現状では、服はいい服だけど、それ、あなたに似合ってないよという事象が多々起きています。季節感が違ったり、TPOが間違ったり。目的に合わない服を着ていることも多いです。
——確かに。体裁だけを気にする上辺のリーダーはこのタイプかもしれません。
そうですね。あと、組織で大切なのは、リーダーの定義を自分たちで考えて言語化すること。リーダーは権限がある人、能力の高い人と、暗黙の了解で決めると、固定的な、昔ながらのカリスマリーダーになります。でも、その定義が崩れたら、当然ですけど組織全体が崩れます。
——実際に指導された中では、どんな回答が出てきますか?
専門的な知識がある、気遣いができる、組織の構造上責任取れる、そんな人ですかね。あと、よくあるのが“覚悟を決められる”リーダーです。こんなフワフワした抽象的な意見も出てきます。
私はこのリーダーの定義化を勧めるときに、参考となるフレーズを紹介していて、それが、「もし、あなたがいることによって、その組織の他者に夢を与えることができたり、他者を元気にさせたり、『頑張ろう』と思わせることができたり、よりワクワクさせることができたなら、あなたはまさにリーダーです」
という一文です。
原文は英語で、もともとは仲間が使っていたものなのですが、これを実際の場面に当てはめると、リーダーの概念が変わります。
例えば、1名のインターンが入社したとします。すると、新人が来たからとみんなでランチをするようになったり、新人が元気よく挨拶するので、みんなも挨拶するようになったり…という変化が起こります。
紹介した一文は、組織にインスピレーションを与えたり、変化を与えたりする人をリーダーと呼ぼうという主旨です。一般的には絶対にリーダーにならないインターンですが、新しいリーダーの概念なら、リーダーになりえます。
——確かに、この定義ではインターンがリーダーですね。
リーダーって役職ではないんです。部長や課長はいるけど、リーダーは別の人物ということも充分あり得る。こんなふうに今までになかった定義を加えることによって、組織は変わっていきます。自分たちで、今どんなリーダーが必要なのかを考えることが大切です。
——ある日、突然リーダーに任命されてしまった人がいます。中竹さんなら、この人にどんなアドバイスを送りますか?
そうですね、まず、言いたいのは、カリスマリーダーみたいなバイアスは持たないほうがいいってことです。リーダーになると、みんな背伸びする。でも、背伸びしないように努めてください。
最初から背伸びすると、ずっと背伸びしちゃう。知ったかぶり、出来もしないのにやろうとしたりとかは必要ないので、できれば期待値は下げたほうがいいですね。
——ほとんどの人は、リーダーになると期待値を上げようとしちゃいます。むしろ、そこで期待値を下げるんですね。
そうです。目標は高くてもいいんですけど、今の自分を高く見積もってはダメですね。あと、最初に期待値を下げておけば、チームのみんなに、そこからどれだけ成長したかも見てもらえます。1歩でも成長すれば、「頑張ってるね」と。
私も監督時代に経験がありますけど、「ダメ監督だけど、まぁまぁ頑張ってるよね」みたいな。特に、上から目線で言われても私は気にしないので。なんか、それくらいのリラックスさを持ってほしいですね。
——コミュニケーションって誰もが使う言葉ですが、中竹さんはコミュニケーションに関して、「それ、違うぞ!」って思うことはありますか?
そうですね、「それ、違うぞ」ということで言えば、「褒めて育てる」というメソッドですね。私は警鐘を鳴らしています。実は褒めるって、私はあまりポジティブには捉えていません。褒めるって、上から目線の評価なので、上下関係ができます。
褒めるってエバリュエーション(評価)なんですが、本当は、「頑張ったよね」「見てたよ」とか、アクナレッジメント(承認)をしてほしいですね。実際、多くの企業のリーダーは勘違いしています。部下のいいところを探そうって。
——褒めるはポジティブなイメージがあるから使いやすいのかもしれません。嫌われないし、恨まれないし。
もし、部下が失敗したら「失敗したな」でいいんですよ。そこをごまかして、「あそこはよかった」ではダメです。試合でもそうですね。「あれだけ練習したけど負けちゃったね」って。
おそらく悪気なくやっている人が多いと思いますが、この勘違いを是正するのが、私の役目の一つですね。ちゃんとした知識やメソッドを、これから広く伝えて行きたいと思っています。
ラグビーというスポーツは、歴史の中でルールが目まぐるしく変更されてきたスポーツだそうです。その時々で柔軟に変容するスポーツというのも、少し珍しいもの。学び続け、ひとところにとどまらない中竹さんの姿と、ラグビーというスポーツには、どこか共通点を感じます。実は、もっともっと面白いお話があったのですが、今回はここまで。中竹竜二さんの今後に目が離せません。
「日本一オーラのない監督」と呼ばれながら、常勝早稲田のプレッシャーを背負いつつ大学選手権2連覇を果たした組織づくりの秘密を明かした2009年の著書『リーダーシップからフォロワーシップへ カリスマリーダー不要の組織づくりとは』に、「これからのフォロワーシップ」について論じた章を新たに加えてリニューアル。1月18日に発売予定。
写真:たつろう
文:杉浦優子
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