—-トップアスリートたちがパフォーマンス向上のために行うトレーニングとして広く知られるようになった、体幹(コア)という言葉。一般の人は意識する必要のない筋肉だと思っているかもしれませんが、美と健康にも関係が深いのです。
女性が体幹トレーニングを行うメリットを、整形外科医であり、競泳日本代表のチームドクターでもある体幹トレーニング研究のパイオニア・金岡恒治先生に伺いました。
体幹とは、手足を除いた胴体部分のことをいいます。浅いところにあるのが”グローバル筋(体幹浅層筋)”、深いところにあるのが”ローカル筋(体幹深層筋)”。どちらも体幹筋ですが、筋力トレーニングで使われる「体幹」は、一般的にローカル筋をさします。
ローカル筋には腹横筋(わき腹の最も奥にある筋肉)、多裂筋(背骨のひとつひとつの骨をつなぐ筋肉)、大腰筋(脊柱と股関節をつないでいる筋肉)などがあります。大きな動きをつくるグローバル筋に対しローカル筋は、からだの軸を安定させ、なめらかで繊細な動きをつくるのが特徴。
ローカル筋が使えるようになると、パフォーマンスが向上するだけでなく、からだに負担をかける無理な動きが減り、ケガをしにくくなることから、さまざまなスポーツ競技に取り入れられています。
人間には、からだの動きを先取りしてローカル筋が働く”フィードフォワード機能”というものが備わっています。手を上げるときに使うのは肩の三角筋ですが、三角筋が働く前にローカル筋のひとつ、腹横筋が働くことで、からだはバランスを保てるのです。
腹横筋が働かなければ、からだの重心は手を上げた側に傾いてバランスが崩れてしまうはず。とはいえ、意識して使わなければローカル筋はどんどん退化し、腰痛を招いたり、転倒しやすくなります。
ローカル筋のひとつ、腹横筋が使えるようになると、立つ、座る、歩くといった日常の動作を行うときに腰骨が安定するので、腰痛を予防することができます。バランス能力も高まるため、年をとっても転倒しにくくなる。さらに、ウエストが引き締まる、姿勢がよくなるなど、女性にとってうれしい見た目の美しさも手に入るのです。
腹横筋をトレーニングする前に、まずはローカル筋がどれくらい退化しているかチェックしてみましょう。
①肩の真下に手、腰の真下にひざがくるように四つんばいになる。顔は下向きに。
②左右どちらかの足を上げて、後方に伸ばす。膝は曲げずに床と平行に。
③足と反対側の手を上げて前方に伸ばす。足同様、ひじは曲げずに床と平行に。
ハンドニーと呼ばれるこのポーズは、手と足を同時に上げられるかがチェックポイントになります。からだがグラグラして一瞬もできない人は、かなり退化していると思ってください。数秒キープできたとしても、左右どちらかに重心が傾いている人は腹横筋が使えていません。腹横筋が使えていない状態で無理をしてハンドニーを行っても効果を得られないので、まずはチェックするだけにしておきましょう。
—-腹横筋と連動して収縮する骨盤底筋群も、広い意味ではローカル筋になるので、出産後の尿モレにも効果があるそう。腹横筋を効率よくトレーニングする方法は次回、ご紹介します。
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先生/金岡恒治
早稲田大学 スポーツ科学学術院 教授。整形外科医。日本水泳連盟医事委員長。ロンドンオリンピックでは、水泳チームのJOC本部ドクターとしてオリンピックに帯同。文部科学省科学研究費の助成を得て体幹トレーニングの研究に従事し、腰痛予防や競技パフォーマンスの向上に応用している。『一生痛まない強い腰をつくる』(高橋書店)など著書多数。
取材・文/山崎潤子(ライター)
イラスト/はまだなぎさ
※今記事は、文章・写真ともWacoal Body Bookより転載し、「Rhythm」にあわせ体裁を整えたものです。