野菜を作るアナウンサー「ベジアナ」として日本全国の農業や食の取材をする一方、介護番組司会の経験から、地域福祉や介護の講演でも全国を飛び回る小谷あゆみさん。そのかたわら家庭菜園歴は17年。仕事もプライベートも、いつも野菜とともにあるようです。野菜を愛し、「都市生活者こそ“農ある暮らし”」を提唱している小谷さんに、野菜作りに対する熱い思いとともに、農ある暮らしの魅力やすばらしさ、生活のリズムの作り方などについて、お聞きしました。
第3回は、野菜作りにハマっていった経緯についてです。
──小谷さんは、野菜を作るアナウンサーということで、「ベジアナ」という肩書きを使っていらっしゃいますが、そもそも野菜作りにハマったのはいつ頃なのでしょうか?
もともとは金沢の石川テレビでアナウンサーをしていましたが、2003年にフリーになって、東京に出てきました。石川テレビに在籍していた頃は、農業の取材もよくしていて、市民農園を借りて野菜を作るというニュース番組の企画で、初めて野菜作りに挑戦してみたのですが、これが想像以上に面白かった。
それ以来、農業の面白さにハマってしまいまして(笑)、翌年には能登半島の棚田のオーナー制度に申し込んで、米作りを体験取材しました。地元のおじいちゃん、おばあちゃんに教わりながら、田植えから草取り、収穫まで、半年間、能登の棚田に通って取材を続けていました。
——石川テレビ時代に、ベジアナとしての素地が出来上がってきたという感じなんですね。
そういうことになりますね。その頃は、自分でロケカーを運転して、カメラも担いで三脚にセッティング。そして、一人でリポートも行うという、何から何まで1人でやる独立型の取材を試みていました。
しかも、農家のおばちゃんにインタビューした後、収穫体験する私の様子を撮ってくださいとおばちゃんにお願いして、カメラを渡して撮ってもらうという、当時としてはかなり実験的な企画でしたね(笑)。
実は、その企画で、フジテレビ系列のFNSアナウンス大賞番組部門中部ブロック賞を、2年連続で受賞したこともあります。
同じ場所を定点観測しながら、取材を続けてわかったこと。それは、棚田というのは季節によってまったく違うんだなあ、ということでした。
田植えを終えた5月、水をたたえてキラキラ光る棚田は、とても印象的でした。7月になると、一面に緑の稲が風にたなびく風景が広がり、そして9月になると、いよいよ黄金色に輝く稲穂が頭を垂れる収穫の秋です。
「ああ、田んぼってこんなにも美しいものなのか~」と。何度もジーンときて、自然に涙がこぼれ落ちそうになるくらい、泣きたいような気持ちになりました。
食べ物が生まれる場所というのは、いつも心揺さぶられる風景の中にあるんですよね。
稲刈りを終え、ハサ干しした艶やかなコシヒカリの味はもちろんのこと、農業には“喜び”と“感動”があることを、そのとき初めて知りました。
そして、私はアナウンサーですので、これほど自分の心が揺さぶられるような感動体験を、もっと多くの人に伝えたい。農業、農村をもっと知りたい、追い続けたいテーマだと思うようになりました。
——それから“ベジアナ”と名乗るようになったのですか?
それは、もうちょっと後のことになります。石川には10年いましたから、もっと日本全国を取材してフィールドを広げたいという思いもありました。それで、フリーになって東京に出てきたものの、すぐに仕事をゲットできるわけではありません。
それで退屈しのぎに、引っ越してきたばかりの品川区の区報を見ていたら、なんと区民農園の募集のお知らせがあるじゃないですか!
私、区報とか大好きなんですよね(笑)。その地域ごとの生活に根ざしたローカルネタ満載ですからね。東京のド真ん中の23区内に区民農園があるなんて、面白いなあと思って、「コレはやらなきゃ!」ということで応募してみたら、ラッキーなことに当選しました。
ちょうどその頃、ブログをやり始める人が増えてきた時期だったので、どんなものかと思って、私もブログを始めてみることにしました。石川テレビ時代は、自分の企画がほぼ番組作りに直結していたのですが、フリーになってからは、そうはいきません。
でもせっかく、大都会・東京のど真ん中で農業をやるという面白い話を、もっと人に知ってもらいたいと思いました。その発信ツールとして、野菜作り日記をブログに綴り始めたのです。
ブログでは、野菜の花をクイズにしたり、できた野菜で料理を作ったり、区民農園仲間のベジトモのおじさんとのやりとりを書いたりしていました。続けているうちに、少しずつですが、同じように野菜作りをしている人や、地方の本物のプロの農家の方など、読者もだんだん増えていったのです。
そのなかの1人の読者の方が、野菜の言葉がわかるアナウンサーということで、「ベジアナ」って名付けてくれたんですよ(笑)。
それ以来、ブログのタイトルも「ベジアナあゆの野菜畑チャンネル」に変えて、自宅のベランダ菜園や農園の野菜たちの成長記録を続けています。
ただ、現在は農村の取材の方が多くなってきているので、ブログでも、自分の野菜作りよりも生産者や取材先での話を書くことが増えていますね。
自分の仕事の幅が拡がると共に、ブログの内容も変わってきていますが、伝えたいことは何も変わっていないですし、これからも変わることなく、私自身が面白いと思ったことや感動したことを楽しく伝え続けていきたいと思います。
——今後の小谷さんの情報発信がとても楽しみです!次回は、野菜作りの魅力について、もっと深くお伺いします。
取材・文:國尾一樹