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UL Ski Hiker=野上建吾さんの バックパックの中を見に行く【スキー再発見――登って、歩いて、滑るスキーをしよう】

UL Ski Hiker=野上建吾さんの バックパックの中を見に行く【スキー再発見――登って、歩いて、滑るスキーをしよう】

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UL Ski Hiker=野上建吾さんの バックパックの中を見に行く【スキー再発見――登って、歩いて、滑るスキーをしよう】

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全5回に渡ってお届けする特集企画「スキー再発見」。第2回は、「ウルトラライト・スキー・ハイキング」という新しいスタイルの山歩きを実践している野上建吾さんが、雪山に赴く際のバックパックの中身をご紹介します。

ウルトラライト・スキー・ハイキングというスタイル

もともと僕は、山を歩くような趣味は持っていませんでした。むしろ都会的な遊びが好きで、クラブでDJをやったりしていた。仕事も音楽関係でした。ところが、8年前に関東から地元の南魚沼に戻ることになった。その節目の時期に北海道を野宿旅したんですが、荷物の重さに閉口して…でも、それがきっかけでウルトラライト(UL)ハイキングの文化に出会った。これはいい!こんな遊びがあるのか、面白そうだと思いました。

※本稿は、野上健吾さんの談話をもとに、編集部が文章化しています。

一方で僕の地元は雪国ですから、子供の頃はスキーは普通に生活の一部としてありました。スキーは遊びであり、学校の授業でもやるし、放課後はスキーのクラブがあった。しかも実家の家業はスキー場関係でしたから。

もうひとつ、僕が地元に帰った年にちょうど「信越トレイル」が開通したというのも大きかった。これはちょっと遊んでみなくては、ということで、ハイキングとかロングトレイルとかウルトラライトというものとリンクしながら、自分の生活スタイルが変わって行きました。
でも、普通にトレイルを歩いているだけだと他の人たちと同じ。自分なりのアイデンティティを確立したいと思ったときに、スキーとハイキングを絡めたスタイルなら誰もやってないし面白いんじゃないかと気がついた。そこから、ウルトラライトな装備を持って、スキーで山を歩くというスタイルに行き着いたんです。

長い距離を歩くために超軽量ATスキーを選択

野上さん愛用のブーツはDynafit TLT5。足首を動かすことができ、歩くことを想定したソールも付いている。

スキーはDynafit PDG。裏面に滑り止め(シール)を装着する。

僕が山で使うのは、山岳スキーレース用の超軽量のATスキー *1。歩くときはスキーの裏にシール *2 という滑り止めを装着します。
ATスキーで使うビンディング(ブーツを固定する金具)は、歩くときは踵を固定せずに使うことができます。そして、いざ滑るとなったら足を固定して滑る。
このスキー板が片方約790g、ビンディングは片方約200gなので、両足分でも合計2kgを切っている。スノーシューよりも軽量なくらいです。でも、いちばん重要なのはブーツの性能。僕が使っているのは、Dynafit(ディナフィット)のTLTシリーズというもの。重さは片足で1Kgぐらい。雪上を歩くことも想定したデザインなので、登山靴に近い感覚で、アイゼン(滑り止めの爪)も付けられます。

*1: アルパイン・ツーリング・スキー=自然の山を滑るためのスキー。
*2:毛足が短く硬い毛皮のような、ケバ立ちが付いたテープ。スキーの裏面に装着して、登坂時に後ろに滑ることを防ぐ。


スキーの道具が軽いと、それだけ楽に長い距離を移動できるようになります。このセットだったら、僕は何日歩いても足の負担は感じない。スノーシューよりも圧倒的にこの装備の方が楽です。スノーシューは足を上げて登りますが、スキーはつま先を付けたままスーッと足を滑らせるので、太腿の筋肉をできるだけ使わずに進むことができる。1週間近く冬山に入るときに、いかに体の負担を減らして楽しく旅をするかを突き詰めると、必然的にこういうスタイルになる。逆に言うと、1泊2日くらいなら、それほど軽いスキーの恩恵は感じられないかも知れません。

雪山テント泊でも、温かいシャワーを浴びる

バックパックはHMG PORTER 4400(70L)を自ら改造したものを使用。3泊4日のスキーハイクに必要な全装備が収まっている。

今日は残雪期 *3の信越トレイルをスルーハイクする想定でパッキングしてみました。距離は約80km。僕の場合は最短で3泊4日で歩きます。食料・燃料も入れて、バックパックの重さは9.5kgぐらい。春の雪山では水は比較的手に入りやすいので、僕は持っていかず、沢の水や雪を溶かしたものを、浄水器で浄化して使います。

*3: 3月~5月頃の、春季ながら山に雪が積もった状態の時期を言う。
PlatypusのソフトボトルとSAWYERの携帯浄水器を組み合わせて浄水。煮沸浄水は燃料を浪費するので行わない。

テントはHMGのフロアレステント ULTAMID 2。床面のないテントだが、換気性能が高い、靴のまま室内に入ることができる、悪天の場合は室内でシャワーを浴びることができるなど、メリットがある。設営時にはポールの代わりにスキーをA字型に組んで立てる。テントの重量は2人用で500gと超軽量。雪が吹き込んでこないように自作のスノーフラップ(水色の部分)を追加している。

不要になったトレッキングポールの部品を改造し、簡易ピッケルとして活用。通常のトレッキングポールの先端をこれに取り替えるだけで簡易ピッケルになる。ひとつの道具に複数の役割を担わせるのはウルトラライトの常套手段。

野上さんが自作して販売もしている「Crazy Shower Kit」はシャワートイレのノズルとシャワーのノズルのセット。ペットボトルなどに装着して使う。

このペットボトルは「シャワートイレ」です。市販されているノズルを改造したものを取り付けて使います。僕は雪山でもトイレの後はおしりを洗浄するし、1日の終りには温かいシャワーで身体を洗います。長い距離を歩くときほど、清潔を心がけないといけない。
僕のスキーハイクは、アクティビティをしているというよりも、山で生活をしているという感覚。これは米国の数千キロにも及ぶロングトレイルをハイキングしている人たちと同じ感覚だと思います。ハイキングが日常になるということ。そうなると、山での生活の品質を上げることが、旅の完成度に大きく関わってくる。
だから、快適に、食べたり・寝たり・行動したりができるように、すごく気を使っている。シャワーを浴びた後は、快適なメリノウールのパジャマに着替えて、カシミアのソックスを履いて寝袋に入る。ウルトラライトな装備だけど、枕も省略しないで持って行きます。

ダウンパンツは持たないが、寒いときは、ダウンジャケットを「履く」というトリックも使える。そのためにあえて大きめのXLサイズを選ぶ。ここでもひとつの物を複数の用途で使うという工夫が行われている。

美味しい食事が明日のスキーハイクを良いものにする


3泊4日分の食糧を並べてみる。主食はやはりアルファ米。しかし、多彩な素材と調味料で食事を楽しめるようにプランニングされている。

1泊2日くらいならインスタント食品や行動食だけでもいいのかもしれませんが、長く山を歩くので食事は重要です。楽しく料理をして、美味しくご飯を食べることが次の日の活力になる。それに、スキーハイクではものすごく身体を酷使するので、リカバリーという意味でも、ちゃんと食べないと身体が回復しません。

僕は1日4食。朝は「そうめんイタリアン」にしています。茹でたそうめんに、だし醤油、トマト、乾燥たまねぎ、粉チーズ、オリーブオイルなどが入ります。
日中は10時頃と14時頃に2回のランチを食べますが、朝のうちに2食分のお弁当を作っておく。1食は酢飯と納豆で海苔巻き。もう1食はベーグルにチーズとツナマヨでサンドイッチです。チョコブレッドとクリームチーズとアボカドのサンドイッチのときもあります。

夕食はチャーハンとスープを作ります。チャーハンを炒めるときに使う生卵は、割れても大丈夫なように真空パックして持っていく。スープではポトフとおでんがミックスされた「ポでん」というのを発明しました。洋風の出汁で、巾着、トマト、ウィンナー。さらに仙台の油麩を入れるんですが、これはすぐに戻るしコクも出る。
無雪期はウルトラライトの象徴とも言えるアルコールストーブを使うが、雪を溶かして水を得るために、雪山ではプリムスの高効率ガスストーブを採用。ガスカートリッジも最小サイズのもの1個で賄う。鍋はプリムスのヒートエクスチェンジャーが付いた高効率のものを使い、燃料の使用量を最小化している。

野上さん作のそうめんイタリアンは普段食べても美味しそう。そうめんは1分で茹で上がり、他の麺に比べ燃料が最小限で済むという利点もある。

尾瀬と伊豆を結ぶロングトレイルにスキーハイクを絡める

僕はいま、自分なりのロングトレイルを設定して、それにチャレンジしています。それは尾瀬を起点として、越後湯沢~草津~軽井沢~西上州~奥多摩・奥秩父~富士山を経由して伊豆までいく長大なルート。このルートを季節を変えて歩いていて、とりあえず今、富士山までは行くことができているんですが、その先の伊豆までは来年の春に歩く予定です。

スキーハイクという意味では、今後はもう少し標高を上げて、よりハードなルートを歩いてみたい。巻機山から上がって越後三山の方向に一回行って逆Uの字を書くように平ヶ岳に行って、尾瀬へと抜けるルートにチャレンジしようと思っています。夏道のない奥利根の最奥なんですが、スキーなら歩けるだろうということで。このルートは上記のロングトレイルの中にも含まれています。
尾瀬から伊豆まで、600km近くあるんですけど、そこを季節を変えて、各エリアのいちばんいいときにセクションハイク *4 で歩きたいと思っているんです。

*4: ロングトレイルを一気に歩き切るのではなく、部分に分けて歩くことを言う。一気に歩き切るのは「スルーハイク」。

野上建吾 Profile
ウルトラライト・ハイキングの知見やギアと、日本のロングトレイル、そして子供の頃から親しんだスキーを組み合わせてULスキーハイキングという新しい山歩きのスタイルを実践、情報発信しているハイカー。南魚沼市の石打丸山スキー場に勤務。
http://ulskihiking.blogspot.jp/


■特集「スキー再発見」は全5回の連載企画です。次回は、スポーツ・フォトグラファーの松尾憲二郎さんと、スキー・ショップ「BLACKDIAMOND」店主の芳沢淳さんによる対談をお届け。お2人が、エクストリームなスキーの現在について語り合います。

1. 対談:堀田貴之 x 土屋智哉 スキーで旅する、自由な喜び
2. UL Ski Hiker=野上建吾さんのバックパックの中を見に行く
3. 対談:松尾憲二郎 x 芳沢淳 山で楽しむスキー、最新事情
4. 土屋智哉さん、バックカントリーで何を食べますか?
5. スキーを楽しむためのセルフケア とっておきのウォーミング・アップ&リカバリー術(2017.11.29 UP)

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