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オープンウォータースイミング(OWS)特集の第3回は、全日本オープンウォータースイミングチャンピオンの宮杉理紗さんによるOWS講習。なんとなく泳げるけど、ここしばらく水に入っていない――そんな方がオープンウォーターを始めるにあたって学んでおきたい水泳の基礎と海で泳ぐうえで知っておくべきことをレクチャーいただきます。
■特集「自然の中を泳ぐ。オープンウォータースイミングを始めよう」全5回
1. 守谷雅之さん、オープンウォータースイミングについて教えてください
2. 対談:浅井弘樹×本間素子 海峡を泳いで渡る理由
3. 宮杉理紗さんのスイミング再履修 水泳の基礎&海で泳ぐコツ
4. 対談:平井康翔×守谷雅之 トップスイマーと指導者、それぞれが語る「自然を泳ぐこと」
5. 自然の水に入るときに気をつけるべきこととは
――「オープンウォータースイミング(OWS)をやってみたい」という人はどういうことから始めたらいいでしょうか。
宮杉 OWSは競技ではあっても、楽しい要素がたくさんあるものなんですね。自然の中に身を投じて、海や川、太陽の光を感じる喜びがあるし、自由度が高くて開放的な環境を泳ぐことで気持ちもリフレッシュできる。そういうことがOWSの醍醐味だと思うんです。ですから、まず楽しもうという気持ちを持つこと。楽しさ重視で始めるのがお勧めですね。
とは言え、ちゃんと泳げない人がいきなり海を楽しもうとするのはとても危険です。プールで一定のトレーニングをして上達してから海に行くべきでしょう。
――プールでのトレーニングの基礎を教えてください。
宮杉 泳ぐうえでベースになるのは浮いている時の姿勢、いわゆる「蹴伸び」の姿勢とバタ足のキックです。この2つが最も重要で、これができていないと、いくら腕を回してもバランスが取れなかったり呼吸がうまくできなかったりします。
姿勢が重要なのは、体を水平な状態にしないと水の抵抗をたくさん受けてしまうからです。水の抵抗は空気の800倍あると言われています。ですので、ちょっと体が傾いただけでも抵抗はとても大きくなる。そしてスピードと水の抵抗は比例しますから、速く泳げば泳ぐほど抵抗も増えます。抵抗をなるべく減らしてスムーズに泳ぐうえで、浮く姿勢がいちばん基本になるわけです。
――キックはなぜ重要なんでしょうか。
宮杉 人間の体のなかで、脚は大きくて重いパーツなんです。ですので、ただ浮いていると、どうしても脚が重いから沈んできてしまう。沈んでいく脚を浮かせて抵抗を軽減するためにキックが必要です。
もうひとつ、脚の筋肉をきちんと使うことで血液循環が促されて、長距離水泳の有酸素運動がきちんとできるようになります。その意味でもキックが大事なんです。
私の考えでは、姿勢とキックがきちんとできるようになれば、クロールは泳げるはずです。
――クロールというと、なんとなく腕が重要に思えてしまいます。
宮杉 そうですよね。ビギナーの方はやはり腕を回したがるんですが、姿勢とキックという基礎ができていないと、いくら腕を使ってもちゃんと泳げるようになりません。姿勢とキックの練習を重ねて、ある程度上達したら腕を回す。効率よく泳げるようになるには、このように段階を踏むのが良いと思います。
――ブレス(息継ぎ)が難しくて、だんだん苦しくなってしまう人も多いのではないでしょうか。コツはありますか。
宮杉 人間は水の中に入った時、生理的な反応として自然に息を止めてしまいます。でも、例えばランニングをしながら息を止めることはないですよね? そんなことをしたら苦しくなってしまいます。水泳も同じことで、息を止めてしまったら苦しくなるのは当たり前。水があろうがなかろうが、運動をする時に息を止めてはいけないんです。
水泳中に息を吸ったら、すぐ鼻から息を吐く、そしてまた吸う。そうやって呼吸動作を止めないリズムを作ることがポイントです。これによって血液循環も一定のリズムができます。どうしても無意識に呼吸を止めてしまうので最初は難しいかもしれませんが、これができるようになるだけで、かなり楽になるはずです。
ここまでお話した姿勢とキック、ブレスはとてもベーシックなことですが、泳げる自覚がある方でもちゃんと理解している人は少ないかもしれません。これらの基礎は本当に大事で、ここが抜けていると、トレーニングを重ねても伸び悩んでしまいます。
――OWSで長距離を泳ぐために、どのような練習で距離を伸ばしていけばよいでしょうか。
宮杉 よく聞かれるのが「1kmのレースに出る時に、1kmをぶっ続けで泳ぐトレーニングをした方が良いですか」ということなんですが、その必要はありません。例えば、まず25mを10回泳ぐセットから始めて、次に50mを5回にする。それができたら100mを繰り返す……このようにちょっとの休憩を入れながら、繰り返す距離を徐々に伸ばしていく方が効率のいいトレーニングになるでしょう。
――これくらい泳げるようになればOWSの大会に出場できるという目安はありますか?
宮杉 OWSは大会によって距離が異なりますから一概には言えませんが、まずは短い距離のレースを目標にして、それに向けてトレーニングを設定していくのがいいと思います。出場する大会の距離の7割くらいを連続で泳げるようになれば、本番でも十分完泳できると私は思います。
それから、距離を設定するのも大事ですが、冒頭でお話したような「楽しむ」部分を目標にするといいと思います。例えば、屋久島の大会に出て、あの大自然の中で泳ごうと考えたら、それはトレーニングのモチベーションにもなりますよね。
――海で泳ぐ場合、プールとはどんなところが違いますか?
宮杉 プールは静水ですが、海は波や潮の流れがある乱水流なので、水の動きで体も動いてしまってバランスがとりづらい。そういう不安定な環境で泳ぐためには、体幹が重要です。体幹は主にお腹の筋肉ですが、これを鍛えることでいい姿勢を保てるようになります。体幹トレーニングは家でもできますし、OWSをするにあたっては大事ですね。
――海で泳ぐ時に必要になるテクニックはありますか?
宮杉 ヘッドアップですね。OWSではコースロープもありませんから、自分がどこを泳いでいるかがわからなくなります。そこで、泳ぎながら顔を上げて、位置を把握する必要があります。
初心者は、クロールと平泳ぎを組み合わせるのがお勧めです。クロールで泳ぎながら、ヘッドアップの時だけ平泳ぎにします。
――そのほか、海で泳ぐにあたって気を付けなければいけない点を教えてください。
宮杉 練習する時に気をつけていただきたいのは、ひとりで海に入らないことです。自然の海では何が起こるかわかりません。必ずグループで泳ぐなり、誰かが見ている時に海に入るなりするようにしてください。安全管理の面では、目立つ色のキャップを被るなどして、自分の存在を他の人にアピールすることも必要です。
大会に出る時は、十分なウォーミングアップをしておくこと。屈伸運動などのストレッチをしっかりして、あとはちょっと泳いでおくのもいいでしょう。レースの緊張でウォーミングアップがおざなりになりがちなのですが、それはとても危険です。
日本の海だと透明度も高くないので、泳いでいる時に何も見えなかったりして怖くなってしまうことがあるでしょう。そういう時にパニックにならないためにも、呼吸が大事ですね。呼吸がちゃんとできていれば平常心を保ちやすいですから。
宮杉理紗 Profile
全日本オープンウォータースイミングチャンピオン、北京オリンピック代表候補。競泳とOWSの経験をもとにした独自のスイムのメソッドを提供する「E3 Fit」を設立。OWS練習会をはじめとするさまざまなプログラム&レッスンを通じてスイム指導を行っている。
http://www.e3-fit.com/
取材・文/Rhythm Ultra編集部 撮影/津田宏樹
■特集「自然の中を泳ぐ。オープンウォータースイミングを始めよう」は全5回の連載企画です。次回は、日本人初のOWS競技でのオリンピアンである平井康翔選手と、OWSの普及活動を展開し続ける守谷雅之さんの対談をお届けします。
1. 守谷雅之さん、オープンウォータースイミングについて教えてください
2. 対談:浅井弘樹×本間素子 海峡を泳いで渡る理由
3. 宮杉理紗さんのスイミング再履修 水泳の基礎&海で泳ぐコツ
4. 対談:平井康翔×守谷雅之 トップスイマーと指導者、それぞれが語る「自然を泳ぐこと」
5. 自然の水に入るときに気をつけるべきこととは
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