プレゼンテーションは、通常、語り手が伝えたいことを、聞き手に理解(納得)してもらうことを目的としますが、優秀なスピーカーは、文字どおり聞き手の心を掴みます。
Apple社の前CEOスティーブ・ジョブズのプレゼンは伝説的で、その手法については、何冊ものノウハウ本が溢れ返っています。ジョブズのプレゼンは、製品の魅力を何倍にも増幅させました。
彼のプレゼンには、必ず盛り込まれている10のポイントがあります。熱心な信者でなくても、彼のプレゼンのポイントを押さえておくことは、大変意義のあることです。この記事では、その10のポイントをご紹介します。
プレゼンの第一声で、テーマを明確にします。MacBook Airのプレゼンの際は「今日は何か特別な空気だ」と始め、iPhoneでは「今日、Appleは電話を再発明する」と切り出しました。
彼はプレゼンの始めだけでなく、途中にも「○○について話そう」と話を続けることで、聞き手の意識を話し手に向けます。先に結論を言うことは、最近ではプレゼンの定石とされており、非常に効果的です。
このワンフレーズで、聞き手はこれから何を話されるか分かるので、思考がスムーズになります。また、最後にもう一度結論を言うことも、忘れてはいけません。
冒頭で、「今日は3つのポイントについて話したい」といった具合に、全体の構成を示しておきます。
聞き手は、今その話題が全体の中で、どの場所にあり、それはどこに向かっているかを理解することで、退屈なプレゼンになりません。
ほとんどのスピーカーが、データやテキスト、グラフによってスライドを埋める一方で、ジョブズはそれとは反対のタイプのスライドを示します。彼のスライドには、ほとんどテキストがなく、多くがシンプルな1つの画像に集約されています。
iPhoneでは、キーになる単語のみが示されました。図や表を使うときにも、文字は最小限に留めます。
これは、シンプルで理解しやすいようにすることと共に、聞き手の注意が、テキストや複雑なスライドに向いて、話に集中しなくなることを防ぐ効果があります。
ジョブズは、その数字がどれだけインパクトがあることなのかを説明するために、数字を効果的に使います。「iPhoneは400万台売れた」という台詞に、「1日に2万台が売れている」と続けます。
このように言い換えることで、単なる数字を、自分が伝えたいことの強力な武器にします。もちろん、数字を誤魔化すことは許されませんが、言い方一つで、全く印象が異なるものとなります。
多くのスピーカーは、プレゼンテーションモードに入ると、淡々と話しがちです。彼は、自社の製品に対しての熱い思いを、プレゼンの中で語ります。観客をオフモードにしないために、熱意を示したのです。
話に抑揚を持たすと共に、「素晴らしい」や「クールだ」といったわかりやすい言葉を使います。目的は、聞き手に理解してもらうこと、納得してもらうことです。
聞き手の半分が分からないような単語や、具体的にイメージがわかないような複雑な説明は不要です。
MacBook Airの発表の際、彼は、その薄さを証明するために、社内封筒を開けて、中からMacBook Airを取り出しました。その瞬間、オーディエンスは一斉に歓声を上げました。
このような、サプライズ演出法は、聞き手の常識とプレゼン内容の差が大きくなるほど効果的です。
特別な視覚効果や、物理的に物体を示すようなデモンストレーションは、非常に効果的ではありますが、他にも顧客の体験談、業界や製品についての最新情報でも、インパクトのある瞬間を演出できます。
ジョブズは、ビデオクリップやデモンストレーション、ときにはゲストを使って、プレゼンテーションを1つのショーとして完成させます。
ジェスチャーや歩き回るといった動きは、聞き手を退屈させません。
最高の準備をしたにも関わらず、プレゼン本番ではうまくいかないかもしれません。ジョブズも、プレゼン中にトラブルに見舞われたことがありました。彼は、そんなときでも、笑って説明を続けました。
目的は聞き手に理解してもらうこと、納得してもらうことです。小さな失敗など、その目的を達成するためには影響ありません。
ほとんどのスピーカーが、製品の機能を説明します。新機能やアップデートした箇所といった内容です。もちろんそれは、重要な説明ではあります。
しかしジョブズは、その価値をエモーショナルに語ります。聞き手は、バージョン1とバージョン2の違いを知りたいのではなく、それによってどんな利点があるのかを聞きたいのです。
彼は、5分間のプレゼンのために、直前まで何時間も練習を行います。彼が、プレゼンテーション全体を、声を出しながら何度もリハーサルしていたことは広く知られています。
スライドの画像やテキスト、自身の語りを完璧に一体化させ、ショーを作り上げているのです。
文:編集部ライター M.T
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