京都を観光していると、多くの外国人を見かけます。写真を撮ってくれと頼まれたきっかけで、その場で解説を求められたりすることもあるかもしれません。
さて、上の写真はなんでしょう?石庭ですね。
では、それ以上のことを聞かれても、あなたはちゃんと答えられますか?今回は、日本人として答えられなければ恥ずかしいけど、実はちょっと難しい、石庭の基本知識をまとめてみました。
そもそも石庭ってなんでしょう?多くの人が、写真や絵で「これが石庭です」と言うことはできると思いますが、例えば、外国人から「説明してくれ」と頼まれても、なかなかできないと思います。
石庭と似た意味の言葉で「枯山水(かれさんすい)」というのがあります。また日本庭園という言い方も、よく聞きますよね。どれも聞いたことがある言葉だし、なんとなく映像は浮かんでくるけれど、違いがよくわかりません。
実は、調べた結果、明確な定義があるわけではないことがわかり、私見ですが、わかりやすくまとめてみました。
すごくざっくり分類すると、日本庭園の中に枯山水というジャンルがあって、さらにその中にあるのが石庭だと思ってください。
日本庭園のイメージは、よく映画やテレビドラマで、政治家などが池の鯉に餌をやっているような庭、と思ってもいいかもしれません。ここは一番大きいカテゴリーなので、いろいろなタイプのものがあります。
枯山水は、そこから池がなくなり、水を使わないで石や砂利、草木などで自然を表現した庭園です。ただ初期や前期の枯山水などは、池の上部に石を組んで滝を表現したり、部分的に水を使ってはいないけど庭全体を見ると水がある、というのもあるようです。
枯山水は、各所から整った優美さを感じますが、全体で見てみると、砂利の砂紋はとくに美しさがあります。
石庭は、そこから草木を取り除いて、石だけ(苔はOK)で自然を表現したものだと考えてもいいかもしれません。枯山水の中のひとつのジャンルでもあるので、砂庭式枯山水ともいいます。代表的なものが、龍安寺の石庭です。その砂紋がまっすぐ横に引かれている様は有名で、よく教科書などでも見かけましたよね。
石庭や枯山水は極めて抽象的な庭園様式です。白砂や小石を使って、水面や水の流れなどを表現します。例えば、橋が架かっていれば、その下の小石や砂の模様である砂紋は水の流れを表していることになります。
このように石庭や枯山水は、自然を抽象的に表現するので、数々の解釈が生まれ、謎めいた存在になったのです。その世界観は非常に優美です。
もし外国人の方に石庭や枯山水の魅力や見どころを伝えるとすれば、まず池や滝、川、海などを、水ではない別の形で表現されているところを一番に伝えたいですね。
また、ただ単に水の代わりに砂や石などで抽象的に表現されているだけでなく、その砂紋の模様など、日本人の繊細な感性が生きた表現を愛で、深く味わってもらえるよう、解説できるといいかもしれません。
ところで、外国人にも伝えたい「日本庭園の心」は、他にどのようなことがあるでしょうか。
石庭や枯山水などに施された表現は、禅の「侘び寂び」といわれる、無駄を省き、華美ではなく、静かに工夫がこさらされた趣が特徴です。その侘び寂びの美意識は、特に外国人にはなかなかすぐには理解がむずかしいものです。
日本人である自分たちですら、分かっていないところもあるのではないでしょうか。
「侘び寂び」とは、もの静かで、どことなく寂し気な世界、枯れ、淡い、閑寂ではあるものの、澄んだ清らかさを表した境地です。そこには、煌びやかでカラフルな色使いはなく、自然の色彩のままを愛でる日本文化が反映されています。
石庭や枯山水などの日本庭園には、自然を敬う精神がそこかしこに反映されています。また、時代の移り変わりへの対応においては、伝統・流行両方を配慮されていることが特徴です。
こうした日本庭園の特徴から感じられる日本人が持つ美意識を、外国人の方にも少しでも伝わればいいですね。
石庭や枯山水のもうひとつの大きな特徴は、臨済宗などの禅宗寺院で見られるということです。坐禅で有名な「禅」ですね。石庭に砂紋などの模様を作ったりすることも、禅宗では修行のひとつ。宗教的な意味合いがあるのです。
もっと具体的に石庭と枯山水を知るために、有名な石庭と枯山水をご紹介します。
龍安寺の石庭は、方丈庭園として、とても有名で、よく話題になることがあります。この石庭は、誰がどのような意図で造ったのかが謎のままだといわれています。またエリザベス女王が絶賛したこともあって、世界的にも有名な庭になりました。
その砂紋は特に有名で、10日に1回のペースで、禅を学んでいる学僧によって描かれているそうです。「砂熊手」と呼ばれる鉄製の熊手を用いて、砂に線を描き、模様をつけています。いつ見ても整然と整った砂紋は、人に手によって描かれ直されていたのですね。
また、この龍安寺の石庭には、次のような神秘的ないわれもあります。
どの角度から見ても必ずひとつの石が隠れてしまい、一度に全ての石を見ることができない、というのが一番有名な話です。しかしこれについては、公式に言われていることではなく、ある地点から見ると一度に全部見られる、という説もあります。
虎が3匹子供を生むと、必ず1匹はどう猛な彪(ひょう)であり、子供だけにしておくと、彪が他の子を食べてしまいます。それでは、母虎が子どもを1匹ずつくわえて向こう岸まで泳いでいく場合、3匹を無事に連れて渡るにはどうすればいいか、という問題です。どうですか?答えられますか?
答えは、
・最初に彪を連れて渡る
・次に他の1匹を連れて渡り、彪を連れて戻る
・彪をのこしてもう1匹を連れて渡る
・最後に彪だけ連れて渡る
こうすれば、彪と他の子供を2匹だけにすることなく渡れますね。
京都の大徳寺という寺の中にある「大仙院」には、枯山水の名園があることで有名です。この庭園を作庭したのは、開山古岳和尚によるものだと伝わっています。この古岳和尚の作庭の腕前は、当時から評価されていたといいます。
この枯山水の庭園は、本堂の四方にあります。それぞれ、砂や岩を用いて、水のない中で、海や川などが盛砂や白砂敷によって表現されています。中には、大河を表現するようなダイナミックな光景もあります。そうかと思えば、細々と山から落ちる水が川となって、大河へ流れ込む様が表現されている場所もあります。
寺の住職が日常的に手入れをしているというこの枯山水。奥深さを引き立たせる木々にも、枯れないよう、水やりがされ、大切に保持されています。
続いて、京都の東山区にある枯山水も有名です。建仁寺とは、栄西禅師という人が開山した京都最古の禅宗寺院といわれています。ここには、枯山水式の庭園があります。
特徴は、まず、大きな3つの石が立っていること。これらは、大海の向こうにそびえたつ山々をイメージさせます。
また、七層の石塔も立っており、白砂で表現された広い海の中に見事に浮かんで見えます。とても簡素でありながらも、力強い表現がそこかしこにある建仁寺の枯山水は、静寂の中、確かな存在感を感じます。
丁寧に育成された低木、苔なども青々と生い茂り、優美な風景を作り出しています。
これまで紹介してきた石庭や枯山水を作る人のことを「作庭家」と呼びます。例えば、平安時代に活躍した藤原俊綱氏や、明治時代の小川治兵衛氏、昭和に生きた重森三玲氏などが有名です。
このような作庭家の人たちの名前も覚えておき、外国人にも伝えていければいいですね。
さて、日本庭園の石庭や枯山水を一通りご紹介してきました。これからますます増えると予想される訪日外国人の人たちに、ぜひ日本の美意識や精神を知ってもらうきっかけとなるように、石庭や枯山水のことを詳しく学んで、教えてあげましょう。
文:リズム編集部 Y・S
写真:リズム編集部・Wikipedia