江戸寛政時代から代々続く老舗米穀店でありながら、枠に捉われない自由な発想で次々と新規事業を展開する株式会社八代目儀兵衛の代表取締役社長・橋本隆志さん。おしゃれにデザインしたお米を“贈り物”として販売したり、京都・祇園、東京・銀座といった一等地で米料亭を経営したりと、多角的な取り組みによりお米の魅力を広く発信しています。
最近では食育事業も開始されたそう。お米を味わうことで、どんな力が身につくのでしょうか?
株式会社八代目儀兵衛 代表取締役社長
橋本 隆志(はしもと たかし)さん
230年以上続く老舗米穀店の八代目として生まれ、2006年に株式会社八代目儀兵衛を設立。
同年、お米のギフト事業を開始し、2009年には京都・祇園に「京の米料亭八代目儀兵衛」をオープンした。さらに2013年からは、五感を通じて「甘いお米」を目利きするコンテスト「お米番付」を毎年開催しており、今後は海外企業と共にお米を使った化粧品開発など多方面へ活躍の場を広げる予定。
http://hachidaime.com/
――御社が行う食育事業とは、どのような活動ですか?
一般的に食育と言うと、田植え体験やお弁当作りを思い浮かべる方が多いでしょうが、私たちの食育事業「my Taste」は、お米の味を言葉に表現することで五感を磨き豊かな感性を育む体験型の能力開発プログラムです。
参加していただくのは、味覚に最も敏感な5~12歳の子どもさんとそのご家族。今の子どもたちはご両親の影響で米食の子が少なく、「お米には味がない」と思い込んでいます。当プログラムでは親子で日本各地のお米を味わい、その甘みを味わうとともに、「もちもち」や「ふっくら」など味覚や食感を言語化し、楽しみながら「五感の正しい使い方」「豊富な表現方法」「プレゼンテーション力」を身につけます。
――お米を教材に、食べ比べながら五感を磨くということですか?
はい、そうです。お米の味の違いを感じることは非常に難しいと言われていますが、私は逆に、日本人はその繊細な違いを日々感じているからこそ世界で通用する優れた感性を持っていると思うのです。ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食;日本人の伝統的な食文化」や海外から注目を集めるクリエティブ力は、日本人の感性が洗練されている証です。
私たちは、食育事業「my Taste」によって子どもたちの五感を磨くことが、日本文化全体の底上げにつながると考えています。
――お米を味わうことで、そんな効果が期待できるんですね。ぜひ、自分でも各地のお米を食べ比べてみたいです。おいしいお米の見分け方はありますか?
見分けるポイントは、米粒がツヤを帯びているかどうかです。白く濁ったお米より、ぴかっと光ったものがおすすめです。こうしたお米は、食べた時に心地よい粘りがあり、噛むと甘さがじんわり広がります。またスッとした喉ごしで、自然と喉の奥に入っていくのも特徴。おいしくないお米ほど、喉ごしが悪くいつまでも口の中に残っているものです。
――では、お米を炊く時に気をつけることはありますか?
一つ目はお米の研ぎ方です。計量カップで量って水を注いだら、まず一度捨ててから研ぎ始めましょう。ここで間違ってはいけないのが、あくまで「研ぐ」のであって「洗う」わけではないこと。そもそも「研ぐ」という言葉は「こすって洗う」ことを意味します。お米同士をこすり合わせ表面についた糠をとることが目的ですから、手でギュッとお米を握るようにして研いでください。目安は2合で約30回。時間にして30秒~1分程度です。終わったら水を注ぎ、汚れを浮かせてお米がこぼれないように注意しながら流します。この動作を合計3回くらいすれば、お米もきれいな状態になり水もほぼ透明になるはずです。
「お米をきれいに」と思うあまり、過度に力を入れたり、釜にこすりつけたりすると、米粒が割れておいしさが逃げてしまうので注意してください。
それともう一つ、お米が炊きあがったらすぐにしゃもじで全体を混ぜること。食べる直前に混ぜる人が多いようですが、炊きあがり後そのままの状態にしておくと、水分が底にたまりベトベトになってしまいます。炊きあがってすぐに混ぜることで釜の中の水分が均一化し、お米が程よくほぐれます。
――これまで銘柄だけでお米を選んでいましたが、お話を伺いもっといろんな品種を食べてみたくなりました。
ぜひ、いろんなお米にチャレンジしてみてください。秋田県や新潟県が米どころとして有名ですが、実はお米は日本全国津々浦々で作られ農林水産省に登録されている品種は約800種※1にものぼります。また、同じコシヒカリでも産地によって個性がありますし、気候の影響を受けるため年によって味が異なります。農家さんの中には、工夫して良いお米を作ろうとしている方がたくさんおられますから、いろんな地域のお米をもっと知ってもらいたいですね。自分の好みの味が分かれば、選ぶ楽しさも生まれるでしょう。
健康食として、海外でも高い評価を受けるお米。私たち日本人は古くから慣れ親しんできた分、かえってその素晴らしさに疎くなくなっているのかもしれません。今回、改めてその魅力に気付き、お米は健康な心と身体を育む心強い存在だと感じました。
京の米老舗 八代目儀兵衛
https://www.okomeya.net/
取材・文:竹田亮子
写真:宇野真由子