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1999年にカレーをはじめとするスパイス料理の出張料理集団「東京カリ〜番長」を結成し、20年間、日本全国でライブクッキングを行ってきた水野仁輔さん。これまでに出版したカレーにまつわる本は実に40冊以上!カレーに関わる様々なプロジェクトを立ち上げ、日本のニュースタンダードとなるスパイスカレーを追求し続けている。そんな水野さんに、日本のカレーのルーツや、カレー&スパイスの魅力についてお話をお伺いしました。
水野 仁輔(みずの じんすけ)
AIR SPICE代表。カレー&スパイスのスペシャリスト。出張料理集団「カリ〜番長」を結成以来、プレーヤーであることにこだわり続け、20年近くライブクッキングを続ける。他にもインド料理を研究する「スパイス番長」をはじめ、さまざまなカレーに関するプロジェクトを立ち上げて活動。これまでに出版したカレー本は40冊以上。近著に『幻の黒船カレーを追え』がある。活動が多岐に渡ることから糸井重里氏に「カレースター」の肩書きをもらう。現在、「ほぼ日刊イトイ新聞」にて「カレーの学校」で授業を行いながら、自ら作ったカレーを移動販売する「カレーの車」も開始。日本のカレーを面白くするためにレシピをすべて公開するオープンソース化を「カレースター計画」にて進める。2016年春から本格的なスパイスカレーが作れるスパイスの頒布サービス「AIR SPICE」をスタートした。
——水野さんは、カレーに関する活動があまりにも多岐に渡るため、糸井重里さんから「カレースター」という肩書きをいただいたそうですね?
糸井さんにそう名付けてもらったのは光栄ですが(笑)、僕的には、1年半ほど前から始めたカレーのスパイスの頒布サービス事業「AIR SPICE」代表というのが、一番シックリします。
もともと、20年前に「東京カリ〜番長」という出張料理集団を結成して以来、カレーの出張料理活動がメインで活動してきました。今は脱退しましが、他にもプロジェクトごとにいろんなグループを作っています。
インド料理を研究する「スパイス番長」とか、フランスにカレー専門店を出そうと研究するグループなどなど……。グループを立ち上げすぎて、確かに把握しきれない面もありますが(笑)、出張料理でライブクッキングをする“プレーヤー”だという自覚があるんです。
——プレーヤーであることにこだわる理由は何でしょうか?
「カレーの世界にこういう人っていなかったよね」ということを20年近くやり続けてきたということですね。楽しいからやってきたことばかりなので、すべて自分で実行したい。1人でできないことは仲間を集めますが、とにかく主体的に動きたい。そのほうが自分の性に合っていると思います。
この6月からフードトラックでランチの販売をする「カレーの車」を始めました。もちろん、僕がすべて作って販売します。朝6時くらいからカレーを仕込んで、10時半くらいに出来上がるとフードトラックに積み込んで、新宿や青山などで自ら販売しています。
カレーを提供するフードトラックはたくさんありますが、誰もやっていないことができそうだと可能性を感じたからです。今後はスケジュールの都合で僕が行けないこともあるかもしれませんが、今のところ、全部、自分でやっています。
——スパイスの頒布サービス「AIR SPICE」はどのようなサービスで、始めたのはナゼですか?
申し込むと、毎月、封筒に入ったスパイスのセットが届く。レシピとちょっとしたコラムが一緒に入っているので、スパイス以外の材料を買ってくれば誰でも本格的なスパイスカレーが作れるといったサービスです。
ここ1〜2年ほどで、カレールウではなくスパイスを使って作るスパイスカレーが注目されるようになってきました。自分で本格的なカレーを作ってみたいという人が増えたのですが、スパイスを揃えるのはけっこう面倒だし、何から買えばいいのかわからない。いろんなハードルがあって挫折する人が多いんですよ。
そういった人たちが入りやすいよう、3〜4皿分の料理で使い切るくらいのスパイスを用意してあげて、毎月、レシピと一緒に届く。しかも、このスパイスはインドで調合して直接空輸しているので鮮度が良い。香りがぜんぜん違います。
有名店のレシピが紹介される時は、本当に大事なところは企業秘密なので明かされることはありませんが、ここではすべて書いてあります。「水野のレシピが手に入るなら」と、プロのシェフも買ってくださっています。実は今、僕はスパイスカレーのレシピのオープンソース化を進めているんですよ。
——レシピのオープンソース化というのは、まさに水野さんにしかできないことですね。
理由はもっとカレーを楽しむプレーヤーを世の中に増やしたいから。カレーにはたくさんの可能性があるはずで、いろんな面白がり方、活動ができると思うんです。スパイス料理を楽しむ人がどんどん増えていけば、いつか日本のニュースタンダードと言えるような美味しいスパイスカレーが生まれるのではないか、と。だから、レシピを隠すことなくすべて公開するようにしました。
——スパイスカレーの魅力とは何でしょうか?
“香り”に尽きますよね。スパイスによって役割が違っていて、臭みを消してくれるだけでなく素材を引き立ててくれます。スパイスカレーというのはバラエティに富んでいて、いかようにも料理できます。そこには、正解も不正解もない。だからこそ、面白い!
また、ターメリックは肝機能障害にいいとか、カルダモンは下痢や頭痛に効くなどといったことも言われます。そこはインドのアユールヴェーダと中国の漢方、西洋医学で見解が違っていたりもして不確かなところもありますが、それでも身体にいいという意味では間違いないでしょう。
さらに、スパイスカレーは具材のほかは、最低限のスパイスと酒と塩だけで十分美味しくなります。すべての素材が目に見えるから信用できますし、化学調味料などを入れる必要もありません。食の安全に気を使う人には、特にオススメしたいですね。
——水野さんにとってスパイスカレーとは何でしょうか?
ひと言で言えば、「日常を豊かにしてくれるモノ」です。一歩踏み出せば、そこには普段とは違った料理の世界が広がっていますから。例えば、いつもの野菜炒めにクミンを入れて香りを出すだけでも大きく変わります。
だから、まずは一度、作ってみて欲しいんです。美味しいスパイスカレーができたら、今度はきっと誰かに食べてもらいたくなるハズです。そこで、人を集めてカレーパーティーをすると楽しいですよ。カレーが嫌いだという人などほとんどいませんから、誘いを断る人なんていないと思います(笑)。それを続けていると、きっと今より豊かな生活にすることができると思います。
最後に「AIR SPICE」で公開している「オニオンチキンカレー」のレシピを公開します。なかなか踏み出せないでいる人たちも、ぜひ、一度作ってスパイスカレーの魅力を知っていただきたいですね!
【オニオンチキンカレー】
スパイシーカレーの味わいに大きな影響を与える玉ねぎの魅力を存分に味わえる「オニオンチキンカレー」のレシピを紹介します。★印のついたスパイスは、最低限使いたいスパイス。△印のスパイスは、入手できれば入れたいスパイス。★印だけでも美味しいカレーになりますが、可能であれば△印のスパイスも入れてみてください。
【材料リスト】(3〜4皿分)
○サラダ油(大さじ3)
<はじめのスパイス(ホールスパイス)>
★クミンシード(大さじ1)
△フェンネルシード(小さじ1)
△カルダモン(5粒)
△シナモン(1本)
△ホワイトセサミシード(小さじ1/ 2)
○玉ねぎ・スライス(大1個)
○ニンニク・すりおろし(1片)
○しょうが・すりおろし(1片)
○プレーンヨーグルト(100g)
<中心のスパイス(パウダースパイス)>
★ターメリック(小さじ1)
★パプリカ(小さじ1)
★コリアンダー(大さじ1強)
△レッドチリ(小さじ1/4)
△ガラムマサラ(小さじ1/4)
○塩(小さじ1)
○鶏もも肉・ひと口大に切る(450g)
○玉ねぎ・くし形切り(中1個)
○水(100㎖)
○トマト・ざく切り(2個)
○ししとう・斜め切り(10本)
【スパイスカレーを美味しく作るポイント】
今回はししとうを材料として使いますが、辛口が好きな人は代わりにグリーンチリを使用するのがオススメ。ししとうがない時はピーマンで代用。また、油脂分が気になる人は、油の量を減らすよりも鶏肉の皮を取り除くといいでしょう。具になる、くし形にカットした玉ねぎはほぐしておくと楽に調理できます。鶏肉は、できれば事前に塩コショウをふってから別のフライパンで皮目からこんがり表面全体を炒めると美味しくなります。
【作り方】
1:鍋に油を注いで中火で熱し、「はじめのスパイス」を加え、カルダモンがプクッと膨らむまで炒める。カルダモンとシナモンはゆっくり香りを出し続けるので、カレーが出来上がるまで取り除かないようにする。
2:スライスした玉ねぎを加えて火を強め、焼き付けるように濃いきつね色になるまで15分ほど炒める。最初は玉ねぎに触れず、水分が抜け始めたところでかき混ぜるように炒めるのがコツ。にんにく、しょうがを加えたら、100㎖(材料の水とは別)の水を加えて水分が飛ぶまで炒める。
3:火を弱めたらヨーグルトを混ぜ合わせ、適度に水分が飛んで玉ねぎと馴染むまで炒める。
4:ここで「中心のスパイス」と塩を加えて、全体がネットリとペースト状になるまで、2分ほど炒める。
5:鶏もも肉を加えたら強火にして、表面全体が色づくまで炒める。
6:くし形切りにした玉ねぎと水100㎖、トマトを加えて煮立たせる。ふたをして弱火で30分程度煮込む。
7:ししとうを加えて混ぜ合わせ、フタをあけたまま中火で5分ほど煮る。ほどよいとろみになったら味見をして、必要であれば塩を加えて味を調えれば完成。
カレーのベースになる玉ねぎと具材の玉ねぎの両方が楽しめるチキンカレーです。すべてのスパイスが揃うといいのですが、★印の4種類のスパイスだけでも十分、美味しいスパイスカレーに仕上がります。ハードルが高いと二の足を踏んでいた人もぜひ、スパイス料理の世界に一歩踏み込んでみてください。その先にはきっと、より豊かな生活が待っていると思います。
取材協力&写真提供
●「AIR SPICE」http://www.airspice.jp/
●ほぼ日刊イトイ新聞「カレースター計画」http://www.1101.com/curryproject/
取材・文:國尾一樹
撮影:たつろう