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対談:宮塚英也×角田尚子 ハワイ島がトライアスロンの“聖地”と呼ばれる理由【特集:トライアスロンと旅】

対談:宮塚英也×角田尚子 ハワイ島がトライアスロンの“聖地”と呼ばれる理由【特集:トライアスロンと旅】

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対談:宮塚英也×角田尚子 ハワイ島がトライアスロンの“聖地”と呼ばれる理由【特集:トライアスロンと旅】

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全5回に渡ってお届けする特集「トライアスロンと旅」。今回のトピックはハワイ島、コナ。トライアスリートにとって、ここは特別な意味を持つ場所でもあります。その理由は毎年10月に開催される〈アイアンマン・ハワイ〉。この世界最高峰のトライアスロンイベントの魅力とは? 日本人で唯一、〈アイアンマン・ハワイ〉でトップ10に2度輝いた元トップアイアンマンアスリートの宮塚英也さんと、『トライアスロン・ルミナ』誌の元編集長として、このイベントを見てきた角田尚子さんに語っていただきます。

■特集「トライアスロンと旅」全5回
1. 対談:謝孝浩×酒井絵美 トライアスロン旅の楽しさを語ろう
2. インタビュー:村山彩 旅先で何を食べる? トライアスリートの体を作る食事
3. 対談:宮塚英也×角田尚子 ハワイ島がトライアスロンの“聖地”と呼ばれる理由
4. トライアスロン旅の醍醐味が味わえるレース開催地 ~土地力とトライアスリート独自のアプローチ~
5. 『最高の睡眠』のスタンフォード大学教授 西野精治インタビュー トライアスリートはいかにして時差と付き合うべきか

――まずはお二人それぞれの “コナ体験”から教えてください。宮塚さんは、アイアンマン・ハワイに何度出場してるんですか?

宮塚 1988年から合計で14回出場していて、そのうちトップ10に2回入ってるっていうのが有名だと思うんだけど、まあ、俺の中ではそれよりも、トップ20に9回入っていることの方がすごいことだと思ってるんだけど。

角田 そうなんですか? 一般的にはやっぱりトップ10の宮塚さんなんですけど。

宮塚 10位から20位っていうのは出入りの激しい順位でね、そこから落ちずに何年もとどまってられたのは俺ぐらい。これって実力が安定して出せてないとできないことだから。

――角田さんのコナ体験は?

角田 私はやる立場じゃなくて観る立場で2012年に初めて行ったわけですけど、コナの街の第一印象は、ワイキキなんかに比べたらかなり田舎で、溶岩の景色が独特だなーなんて思った程度。でもいざレースの日になったら、ここの特別さがわかりましたね。

――どんな雰囲気なんですか?

角田 朝のスタートや日中にプロがゴールする瞬間もすごいんですけど、ここの特別さを一番象徴しているのは、夜も深くなってきた頃のフィニッシュエリアですね。制限時間ぎりぎりで戻って来るアスリートを、観客、スタッフ、ボランティア、そしてすでにフィニッシュしたアスリートたちまでが一体になって声援を送るんです。あの盛り上がりと雰囲気は、今までの人生で感じたことないもので、「ああ、こういうことなんだ、ハワイが他と違うのは」って思いました。プロもアマチュアも、みんながこの大会を目指す理由は、これを体験したいからなんじゃないかなって。

――制限時間は確か17時間ほどでしたよね。最後のアスリートが帰ってくるのは真夜中?

写真提供:東海林美佳

角田 そうなんです。ランのコースのラスト数百メートルが花道のようになっていて、その周囲に人が鈴なりで声援を送ってる。そして時間内にゴールできたら、MCの人に「You are an Ironman!」って言ってもらえる。今にも倒れそうな人もいるんですけど、その瞬間みんな誇らしげな顔になって。「なんていうスポーツなんだ、トライアスロンは!」って思いました。このコナならではの盛り上がりと雰囲気を感じて、ここがトライアスロンの聖地と言われ続けるのはこういうことなのかなって。

――過酷な競技に挑んで、それを成し遂げた人たちへの祝福ですね。順位関係なく。

角田 そう、自分はアイアンマンをやったことはないんですが、あれを見ていると羨ましくなる。ゴールランプに立ってガッツポーズで喜んでる人もいるし、崩れ落ちる人もいるけど、どっちも羨ましい。あそこに立つ選手の気持ちってどうなんですか?

宮塚 いやー、期待を裏切って申し訳ないんだけど、俺ははっきり言って何も特別感ないんですよ。プロとしてはそういう特別な気持ちを持ってしまうこと自体よくない。自分が海外のレースで結果が残せた理由は、どこにいってもいつも通りにやれたから。ハワイでは初出場で9位に入ったんですが、それも普通のレースとしてやったから。ただ、周りの人たちが異様に興奮してるのが面白かったね(笑)。選手時代、何が楽しくてレースがんばってたかっていうと、周りの人たちが喜んでくれることだから。プロになって、スポンサーがついて、メディアも来てくれて、彼らが「宮塚がんばれ」って。そして活躍できるとすごく喜んでもらえる。それがうれしくてやってたんですね。

角田 日本のレースと比べて、世界一を決めるハワイは競争相手のランクが違うわけですけど、そのあたりの違いはあった?

宮塚 ないね。スイムが遅かったこともあって、バイクとランでは抜くだけだったからね。ただ、日本でレースをやるとランスタートの時、前に2~3人なのが、コナだと10人以上いる。選手層の厚み。それが違いといえば違い。

角田 コナウィンド※1はどうでしたか?
※1コナウィンド:アイアンマン・ハワイのバイクコースに吹く強烈な横風。選手はこれに苦しめられる。

宮塚 それが吹いたら逆にラッキーだと思ってたね。悪条件になると実力のない奴が落ちてくる。俺はバイクが得意だったから、風は歓迎だった。日陰のない溶岩ばかり見える景色の中を走るのも、単調という人もいるけど俺にとっては集中できてよかった。自分はレースするだけなので、景色を見るわけじゃないしね。コナがいいとこだなあと思ったのは、選手をやめてからですよ。スタートだって当然見たことなかったけど、実際見たらきれいだったね。1000人以上の選手が一斉にスタートする光景はやっぱり圧巻だった。

写真提供:東海林美佳

角田 そう、朝日が逆光であたってホントに美しい。その中でSUPに乗って選手をみまもるライフセーバーが何人もいて。スイムだけじゃなくてバイクコースもダイナミックで、走ってて楽しいんじゃないかと思うんですけど。

宮塚 選手は常に苦しいよ。この苦しさから早く解放されたいって走ってたんだから。楽しいなんてことはないよね。

角田 ハワイ特有の湿度と気温の高さに苦しめられる選手も多いですしね。あれを克服できるかどうかで明暗が分かれる気がします。

――アイアンマン・ハワイは世界選手権であるという以上の何かがある、と言われます。その理由は何でしょうか?

宮塚 昔、フロリダの会社がアイアンマンというブランドを買った時に、世界選手権がフロリダに行くっていう話もあったんですよ。そうしたらみんなが興醒めした。「え? じゃあ目指す意味ないよね」みたいな雰囲気に一気になったんです。結局フロリダには移さなかった。それがすべてを語っている。ハワイはアイアンマンの原点※2だし、ハワイでやることに絶対意味がある。
※2アイアンマンの原点:アイアンマンは、1979年にオアフ島、ホノルルで始まり、1981年にハワイ島のコナに移った。

角田 あるトップ選手をインタビューした時、「ハワイはパワースポットで、地面からパワーをもらって走ってる」って言ってたのがすごく印象に残ってます。そういう目に見えない磁場みたいなものがある土地でもありますね。だからみんな1度来るとまた戻って来たくなる。それと、現地のボランティアにも感動しますね。借り出されてやってるんじゃなくて、このイベントに参加して楽しむためにやってる。無償でも自分の役割に誇りを持っている。そしてみんなすごく楽しそうにやってるんです。

宮塚 そのあたりは文化の差を感じるよね。ハワイの大きな魅力としては、そういう、ボランティアの人たちが作っている雰囲気があるね。

角田 日本からボランティアをやりに行く人もいますしね。ただ見るのとは違った体験ができるからでしょうね。日も暮れてくると、ランコースも真っ暗になるんですけど、その中でまばらにやってくる最後尾の選手たちをずーっと待っているエイドステーションの人とかね。あきらめそうになってる選手の横を声をかけながら並走してくれたり。

――ハワイ名物のイベントもありますよね。レースウィーク中、スイムコースの沖にコーヒーを出す船が出るとか?

角田 そう! 誰でも泳いでそこまで行けば、コーヒーを出してもらえるんです。

宮塚 俺の頃はなかったな、そういうの。2000年過ぎてからだろうね。遊び心があっていいよね。

角田 私も泳いで行ったことがあります。船までたどり着くと、ミルクと砂糖を入れるかどうか聞かれて、ちゃんと好みのコーヒーを出してくれる。

宮塚 それを立ち泳ぎで待ってるの?

角田 船のへりに捕まって。でも飲む時ちょっと海の水が入ってしょっぱくなる(笑)。ハワイならではのイベントといえば、あとはアンダーパンツランじゃないですか? みんながパンツ一丁で走るランがあるんです。

写真提供:東海林美佳

宮塚 あれは昔の有名選手ポール・ハドルとロック・フレイが始めたんだよね。彼らは今でも白ブリーフ一丁で先頭を走ってるよ。最近はみんな仮装したりカッコつけたりしてるけど、本来あれは白ブリーフじゃなきゃだめなんだよ。

角田 日本人軍団はアイアンマンマークを入れたふんどしで走ってますね。あれも目立つ。そういう伝統を面白がる感じも、ハワイならではですね。みんな半裸で走ってるんですが、そこはアマチュアでもトップクラスのひとたちばかりなので、男女ともに見事なシックスパックをお持ち。あれには感心させられます。

――アイアンマン・ハワイは、数々の伝説が生まれた地でもあります。一番有名なのは「アイアンウォー」と呼ばれる1989年のレース。

宮塚 最後までもつれたマーク・アレンとデイブ・スコットの死闘ね。俺も出てた年。珍しく涼しくて条件のよかった年で、二人のランのタイムがすごくよかったんだよね。マーク・アレンはコースレコードで走って、それがその後27年間破られなかったほど。

角田 今でもあの映像は現地で必ず流れます。まさに伝説のレース。パンフレットにも必ず二人のその写真は載ってるし、当のお二人はレジェントとして今でも現場に来てますよね。あとは、最後に這ってゴールした……。

宮塚 有名なのは1997年のヘザー・ファーとロリ・ボウデンかな。

角田 それですね。2人がもう立てなくなって、ゴールに向かって必死に這っている写真を見た時、一体何のシーンなのかと思いましたから。「過酷」とか「鉄人」っていうイメージはあのへんからついてきたのかも。

――そういうプロのフィールドと「エイジグルーパー」と呼ばれる一般選手が一緒の土俵でレースするというのもアイアンマンの魅力ですよね。

角田 一般選手が出るにも資格が必要で、みんなそれを目指して必死にトレーニングしてるんです。ものすごくストイックにやってますよね、みなさん。

宮塚 まあ、ストイックにやったって速くなるわけじゃないんだけどね。もっと肩の力抜いてやればいいんだよ。アイアンマンの本質って、どれだけ楽しんでやれるか、ってこと。コナに行けなかった人がよくいうセリフがある。「自分はこんなにがんばったのに行けなかったんだから、あなたのその練習じゃコナに行けないよ」と。でもそういうケースってほとんどがオーバートレーニングなんですよ。楽しくやれてる範囲の中で段階を踏んでレベルを上げていくことで力がついていくんです。

写真提供:東海林美佳

角田 みんな真面目すぎるんでしょうね。オーバートレーニングで故障したり、精神的に自分を追い詰め過ぎちゃったりする人も多いんです。ハワイに行って思うのは、楽しむ姿勢が全面に出ているなって。トライアスロンの本質的な楽しさを確認できるというか。

――お二人にとってコナとは?

宮塚 自分を輝かせてくれた場所だね。今じゃ、何年かに1回行って、当時競い合ったグレッグ・ウェルチやマーク・アレンに会って挨拶し合って旧交を深めるなつかしい場所、かな。

角田 初心に帰る場所。こういう仕事をしているとトライアスロンというスポーツに慣れてしまうんですけど、コナであの雰囲気を味わうと改めてスイッチが入る。トライアスロン愛を確認する場所ですね。

角田尚子 Profile
日本唯一のトライアスロン専門雑誌『トライアスロン・ルミナ』前編集長(現在育児休暇中)。その前身雑誌である『トライアスロンJAPAN』からトライアスロンに関わって8年。自身もデビュー戦の〈ホノルルトライアスロン〉他、〈全日本トライアスロン宮古島〉や〈佐渡国際トライアスロンBタイプ〉、〈横浜トライアスロン〉などに出場経験あり。
https://triathlon-lumina.com

宮塚英也 Profile
宮塚英也スポーツ研究所所長。80年代後半から90年代にかけてプロトライアスリートとして活躍。現在は指導者として学生、トップ選手、アマチュア選手らを幅広く指導。栃木県那須に店舗を構える「ハイディア トライアスロン&バイク」も経営。
http://hidear.net/msl/

取材協力:アロハテーブル代官山フォレスト
ワイキキに本店を構えるハワイアン・カフェ&ダイニングの代官山店。本場ワイキキ仕込のローカルフードから、ヘルシーディッシュまで多彩な食事やスイーツが楽しめる。ブランチ、カフェ、ディナー、バーと、さまざまな時間に合わせて自由に利用できるオールデイダイニング。
http://daikanyama.alohatable.com/

取材・文/東海林美佳 撮影/堀弥生


■特集「トライアスロンと旅」は全5回の連載企画です。次回は、ライター/小説家の謝孝浩さんが、旅の醍醐味が味わえるトライアスロンレースの開催地をご紹介します。

1. 対談:謝孝浩×酒井絵美 トライアスロン旅の楽しさを語ろう
2. インタビュー:村山彩 旅先で何を食べる? トライアスリートの体を作る食事
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