元々は東洋の仏教がルーツである新しい瞑想法、マインドフルネス。マインドフルネスを生活のなかに取り入れてトレーニングを続けると、「仕事の生産性が上がる」とか、「集中力が高まる」「頭が良くなる」「視野が広がる」「ストレスが減る」「対人関係がうまくいく」「落ち着いて対処できる」などといった様々な効果が期待できるとされます。
しかし、根幹にあるのは、「心の安寧」を得ることで、日々の生活リズムが整い、毎日の生活に好循環を生んでいくことなのかもしれません。
これまで、マインドフルネスとは何なのかといったことを東京マインドフルネスセンター長であり、『知識ゼロからのマインドフルネス 心のトレーニング』の著者でもある長谷川洋介さんにお話を伺いましたが、5回目以降は、マインドフルネスの実践方法をお伺いしてまいります。
6回目となる今回は、マインドフルネスのトレーニングのメインとなる、「座る瞑想法」について長谷川さんにレクチャーしていただきました。
——マインドフルネスの「座る瞑想」では、どのように坐るのがいいのでしょうか?
私のセッションで座る瞑想をする時には、座蒲(ざふ)を使っています。座禅や瞑想用の少し小さめの座布団なのですが、そのほかにも、ヨーガブロックという、エクササイズ用のブロックなどもあります。こういったものを用意できればいいのですが、なければ、普通の座布団やクッションを折ったり、重ねたりして使うというのでもかまいません。要は、お尻に敷くものがあれば何でもかまいません。
まずは、座蒲や座布団などを、少し浅めに腰に据える感じで置いてください。
この時、骨盤をしっかり立てるように座るのがポイントです。尾てい骨がちょうど座布団の上になるようにして、両ひざは床につける。腰と両ひざの3つの点で身体をシッカリと支えるように座ります。腰を据える感じでしっかりと座ると、自然と胸が開くような感覚がわかってくると思います。
そこで、体幹の軸を立ててあげるようにしましょう。足の組み方は、あぐらの姿勢でもいいですし、できそうな人は、片方の足を腿の付け根に乗せる「半跏趺坐(はんかふざ)」の座り方でもかまいません。
半跏趺坐の座り方。座蒲は浅めに据えるように置く
ちょっと上級編にはなりますが、足を組んであぐらの姿勢にした後、両足を太股の上に乗せる「結跏趺坐(けっかふざ)」という座り方もあります。できそうだという人は、この足の組み方でもいいのですが、無理はしないようにしてください。
慣れるまでは、あぐらを組むか、半跏趺坐でかまいません。自分にとって、楽な姿勢で座るようにしましょう。
次に手の組み方ですが、膝の上に手のひらを上にして置いていただく形でもいいですし、右の手のひらの上に左の手のひらを乗せて、親指と親指を付けるというのもオススメです。この手の組み方のことを瞑想の印の種類で「法界定印」(ほっかいじょういん)と言います。
法界定印の組み方。親指と親指をこのように付けるようにする
瞑想の印は、手のセンサーです。瞑想がうまくいっているときは集中力が増すので眠くなることはないのですが、うまくいっていないときは眠くなってしまうこともあるでしょう。そういう時には、親指と親指がふっと外れてしまいます。外れてしまったら、そこに気づいて、親指と親指を付け直す。そのためのセンサーと言っていいでしょう。
次に目ですが、最初に目を見開いてから、1〜2メートル先の床に視線を落とすようにしましょう。そこで、まぶたを半分くらいおろす感じで半眼になるようにします。ただ、目は開けたままでもかまいませんし、ドライアイなどで開けたままにするのが辛い人は、閉じてしまってもかまいません。自分がやりたいように、やりやすい方法でいいでしょう。
姿勢が整ってきたら、少し、身体を前後左右にゆすっていきます。さらに、身体をゆすりながら、自分の身体の中心地を探すといったイメージで動いてみてください。はじめは大きくゆすっていって、中心地を探しながら、だんだん小さくしていきましょう。
なるべく最小限の力でゆするようにしていって、最もスーッと自分の体幹が伸びるポイントを探すことができたところで、動きをストップしましょう。
——呼吸に関してはどうでしょうか?
これは、前回レクチャーしたやり方と同じです。繰り返しますが、マインドフルネスの呼吸は、呼吸をコントロールするのではなく、自分の呼吸をありのままに観察していくだけ。自分自身の身体が吸いたいように吸わせて、吐きたいように吐かせる。身体にまかせて呼吸をして、その感覚をジックリと味わいましょう。そして、ありのままを受け取っていくのです。
呼吸の時のポイントとして、舌の位置も重要です。舌は、上の歯の裏に当てるようにしてください。マインドフルネスの呼吸は鼻呼吸が基本ですが、口をかたく閉じていると、どうしても鼻呼吸がしづらくなります。舌を上の歯の付け根あたりに軽く押しつける感じにすると、鼻呼吸がしやすくなるので、舌の位置をどうするかといったことも覚えておいていただきたいと思います。
——瞑想に入るときのポイントなどはありますか?
瞑想に入ると、雑念がいっぱい出てきます。
未来のことだとか、過去のことであるとか……。そうなると、今にとどまることができなくなってしまいます。これも繰り返しになりますが、マインドフルネスというのは、「今、この瞬間にとどまる」ために、瞑想をします。うまく瞑想をするためには、呼吸に集中すること。呼吸に集中することを「アンカーにする」と言いますが、自分の安全地帯として設定することが、大きなポイントです。
次々と雑念が出てきてしまったとか、いろいろな考えが出てきてしまったのであれば、まずは、それに気づく。そして、常に呼吸に戻っていくというのが、マインドフルネスの基本的なトレーニング方法です。それに尽きると言ってもいいでしょう。
それを繰り返しているうちに、次第に「思いの手放し」が上手になっていくことでしょう。何かひとつの思いにずっと囚われるのではなく、そこからポッと手放していける状態を作れるようになるという感覚です。これがうまくできるようになると、いろんなことに執着しなくなるということですね。何かの思いに囚われてしまっていたとしても、「ま、いっか」と思えるようになります。
そうは言っても、ネガティブなイメージと言いますか、投げやりな意味での「ま、いっか」ではありません。例え、何かでうまくいかないことがあったとしても、「しょうがないな」と、引きずらないようにするということです。
自分なりに精一杯やったけれども、しょうがない、と思えるという状態です。自分1人でグチグチ考えていてもどうしようもないことは、いつまでも悔やんだり、思い悩んでみても何も解決しません。ただ、ストレスがたまるだけです。そういう思いをうまく手放すのが、「思いの手放し」です。
——思いの手放しがうまくできるようになるためのポイントはありますか?
雑念など、何か思いが出てきたときに、どう対応するのかということで、瞑想の次の段階に進んでいきます。雑念や思いが出てきたら、そこに気づくということが大事なポイントになります。「ああ、そういえば、アレをやっていなかったな。ヤバいな」とか、「お腹すいたな。この後、何を食べようかな」などなど……。
様々な雑念や欲望に気づいて、今、やるべきことに集中する。それがマインドフルネスにおいては、呼吸なのです。呼吸に注意を向け直して、シッカリと今にとどまり、今、この瞬間の感覚を味わうといった作業を繰り返すことが重要なポイントになりますね。
——雑念に気づいて戻るためのコツはありますか?
指導する人によって違うことではありますが、初心者の方に私がオススメしたいのは、以下のような方法です。今、雑念が出てきたと思ったら、「雑念、雑念。呼吸に戻ります」と心のなかで、あるいは呟くことで号令をかけるように唱えて、呼吸に戻って意識を集中させる。そして、戻ったら、なるべくそこに留まるようにするというのが、一番、わかりやすいコツだと思います。
やり方は、人それぞれやりやすいものがあるはずです。トレーニングしていくなかで、自分のやりやすい方法を見つけて、時にはアレンジしたりと工夫しながら続けていっていただければと思います。そして、瞑想中は常に呼吸に意識を集中させることに戻っていって、呼吸のとても繊細な感覚を感じ取り続けることに徹するようにするのが、大事です。
以上のポイントを理解していただいたところで、私のガイドによる動画と共に、5分間の座る瞑想をしてみていただきたいと思います。
取材・文 : 國尾一樹
撮影:たつろう
撮影協力: 東京マインドフルネスセンター
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