こんにちは。精神科医の松井健太郎です。
前回はレム睡眠とノンレム睡眠の働きを中心に解説しました。
今回も、朝の大寝坊をしたときにありがちな、「えっ!なんでこんな時間なんだろう?目覚まし鳴らなかったのかな?」という現象について解説します。
みなさん、「夢遊病」という言葉、聞いたことがあるのではないでしょうか。
夢遊病の正式名称は「睡眠時遊行症」と言います。眠りながら歩き回るのですが、しばしば目は開いていて、明かりに向かって歩いたり外出したりと、ある程度複雑な行動を取ります(ゴミ箱に放尿したりなど不適切な行動を取ることもあります)。
症状の多くは、夜間前半の徐波(じょは)睡眠期(深いノンレム睡眠が出現している時期)に現れます。持続時間は数分程度で、自然に収まりますが、その間の記憶はないことがほとんどです。
また、この症状は小児期に多く見られ、お母さんがびっくりして相談しに来ることも少なくありませんが、成長に伴い自然と消失するのがほとんどです。
この夢遊病は、徐波睡眠期からの不十分な覚醒がトリガーとなって起こるのですが、今回の主題、「目覚ましが鳴らなかったんです」現象も、実はこれと同じことが起こっている可能性が高いんです。
思い出してみてください。「目覚ましが鳴らなかったんです」現象が起きたのは、
・「最近いそがしくて、4時間くらいしか寝られないなあ…」なんて日が続いたある日の朝
・「あと20分したら家を出なくちゃいけないけど、すごく眠いなあ…アラームかけてちょっとだけ寝よう」なんて日の夕方
が多いんじゃないでしょうか。
このように、徐波睡眠中にアラームが鳴ると、中途半端に覚醒し、無意識のうちに鬱陶しいアラームを消してしまう。そして翌日そのことを忘れてしまう。これが「目覚ましが鳴らなかったんです」現象なのでした。
・目覚ましが鳴らなかったと感じるのは、無意識のうちに目覚ましを止め、また止めたことを思い出せない状況だったから。
・その現象には深いノンレム睡眠(徐波睡眠)が関係している可能性が高い。
慢性的に睡眠不足だと、睡眠時間が足りない分、深い睡眠である徐波睡眠の割合が増えてしまいます。そうすると本来起きる時間にも、徐波睡眠が出現してしまい、「目覚ましが鳴らなくなる」と感じるリスクが上がるので、注意が必要です。
また、一度徐波睡眠が出現してしまうと、1時間ちょっとは目覚められないことがありますので、先述したような眠くて仕方ないから一瞬寝よう!という状況にも注意しましょう。
というわけで結局、睡眠不足が良くないのでした。
ちなみに、年齢が上がるにつれ、良くも悪くも睡眠の質が悪くなるので、徐波睡眠量は少なくなります。そのため「目覚ましが鳴らなかったんです」現象は少なくなることでしょう。
…なんだか身も蓋もない健康雑学ばかりになってしまいましたが、今後もこんな感じで続けていこうと思います(開き直り)。次回もお楽しみに!
文:リズムアンバサダー 松井健太郎