こんにちは。精神科医の松井健太郎です。
前回記事では、「夜間の就寝前後に過食してしまう(食べた記憶はある)」という夜間摂食症候群について解説しました。
今回は前回に続いて、「夜間寝付いた後に寝ぼけ(半覚醒状態)ながら摂食する」という睡眠関連摂食障害について解説します。
睡眠関連摂食障害とは、夜間睡眠中もしくは半覚醒状態にて、無意識に食物の摂取や飲水を繰り返す病態です(参考文献1)。寝ぼけながら摂食するのが特徴で、食べた記憶がないという点が夜間摂食症候群との大きな違いです。
したがって、睡眠関連摂食障害では、翌朝目が覚めたときに、食べものの残骸がキッチンに散乱していて愕然とする、なんて状況がしばしばあります。
食べるものは炭水化物や脂肪分など、比較的高カロリーな食品が多いです。一方で、未調理のもの、食用でないもの(ペットフードなど)、ときには毒性のあるもの(タバコ、台所洗剤など)、アレルギーのため通常避けている食物など、通常では考えられないようなものを食べることもあります(同2)。
寝ぼけて調理をすることもあるんです。包丁やガスコンロを使うことも。そのせいで怪我をすることもあります。危ないですね。
ここまで読んでわかるかと思いますが、「就寝前後にどうしても食べてしまう(ただしちゃんと食べたことは覚えている)」夜間摂食症候群とはだいぶ色彩が違いますよね。
現在、睡眠関連摂食障害は、睡眠時遊行症(=夢遊病)の一亜型であると考えられています(同1)。寝ている間に歩き回って食べているわけですから、たしかにその通りですよね。
以前の記事でも紹介しましたが、睡眠時遊行症は徐波睡眠期(=深いノンレム睡眠)からの不十分な覚醒がトリガーとなって起こります。
睡眠関連摂食障害も同様です。これは夜間前半の徐波睡眠が増えることにより、不全覚醒をきたすことが原因と考えられています(同2)。
慢性的な睡眠不足があると、それを補う形で睡眠が深くなり、徐波睡眠が増えます(同2)。アルコールや一部の薬剤(とくに超短時間型の睡眠導入剤)も同様の理由から、睡眠関連摂食障害を賦活することがあります(同1)。
また、睡眠時無呼吸症候群や周期性四肢運動障害等の睡眠障害でも、不適切な覚醒刺激により睡眠関連摂食障害の原因になることがあります(同2)。はっきりと原因が特定できない場合には、睡眠ポリグラフ検査等を行ったほうが良いでしょう。
・寝ぼけ食い(睡眠関連摂食障害)は夢遊病の一種
・慢性的な睡眠不足、飲酒や睡眠導入剤の影響で出現することがある。睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害によって二次的に起こることもある
ちなみに、前回と今回とで異なる疾患として紹介した夜間摂食症候群と睡眠関連摂食障害ですが、両者はしばしば合併します。
なかなか症状が改善しない場合は睡眠障害専門の医療機関に相談してみてください。
<参考文献>
1. American Academy of Sleep Medicine. International classification of sleep disorders—third edition (ICSD-3). Darien, IL, USA: American Academy of Sleep Medicine 2014.
2. Inoue Y. Sleep‐related eating disorder and its associated conditions. Psychiatry and clinical neurosciences. 2015;69(6):309-20.
文・資料提供:リズムアンバサダー 松井健太郎