こんにちは。精神科医の松井健太郎です。
寒くなり、空気も乾燥してきて、風邪を引きやすい季節になりました。みなさんは大丈夫ですか?
僕は先日、山形に出張中に風邪を引き、鼻づまりがひどい状態でした。大して体調は悪くなかったので、深く考えることもなく飛行機に乗って帰ってきたところ、その後も耳が詰まった感じがとれなくてとれなくて。
スキューバダイビングよろしく何度もつばを飲んだり、耳抜きをしたりと試しましたが全然治らない。そのまま仕事に行き、しつこい耳の違和感にプンスコしていたところ、同僚に言われました。「それ中耳炎だよ」。
そこですごすご耳鼻科の先生にみてもらい、抗生剤をもらって飲んだところ、耳の違和感は数日でスッキリ良くなりました。やっぱりお医者さんはすごい!(笑)
「航空性中耳炎」と言うそうです。飛行機に乗るときには、鼻づまりに注意ですね。反省…。
さて、中耳炎だった僕は抗生剤を処方してもらいましたが、これは細菌を殺す薬ですね。普通の風邪だといわゆる風邪薬を飲む人が多いのではないでしょうか。テレビCMでもお馴染みですね。
ところで、風邪薬を飲むと眠くなるというのはみなさん経験があるかもしれません。今回は風邪薬を飲むとどうして眠くなるのか、というお話です。
風邪の症状を思い出してみましょう。咳、鼻づまり、喉の痛みに加えて、頭痛、発熱、筋肉の痛みなどさまざまな症状がありますよね。
風邪薬は総合感冒薬と呼ばれますが、その名の通り、風邪によるさまざまな症状に効くような成分が配合されています。薬局に行くと、たくさんの種類の風邪薬が売っています。それぞれ成分は異なるのですが、基本的には「解熱鎮痛剤」「去痰薬」「咳止め」「抗アレルギー薬」が含まれていることが多いです。
この中で、風邪薬の眠気の原因になるのは「抗アレルギー薬」です。アレルギーの薬の抗ヒスタミン作用によります。
ヒスタミンは身体の末梢組織で、アレルギー反応に関わります。アレルギー性鼻炎・結膜炎、蕁麻疹などがそうですね。
このヒスタミンをブロックすることで余計な症状を抑えるわけです。ところが、ヒスタミンは脳内では覚醒維持機構の一翼を担っています(注1)。アレルギーの薬は、ヒスタミンによる「昼間なんだから起きてて!」という司令もブロックするので、眠たくなってしまうわけです。
アレルギーの薬は改良が進み、脳内への作用を抑えた眠気が出にくいものが登場しています。僕も花粉症の時期にはアレルギーの薬が手放せませんが、そこまで眠くなりません。
ただ、そういった新しい薬は、風邪薬に含有するにはちょっと価格面の折り合いもつかないんでしょうね(笑)。普通の風邪薬では、もうちょっと昔のタイプの抗アレルギー薬を含有していることが多いです。
アレルギーの薬で眠くなるのは古くから知られており、不眠症に対しても使用されてきました。有名なのが『ドリエル®』です。これも薬局に売っていますね。
他にも薬局で買える不眠症の薬がいくつかありますが、どれも主要成分はジフェンヒドラミンです。これは眠気が強い第一世代の抗ヒスタミン薬、すなわちアレルギーの薬なのでした。
ジフェンヒドラミンに関して注意してほしいのは、すぐに耐性ができることです。続けて毎日服用していると、すぐに効き目がなくなっていきます。
ジフェンヒドラミンとプラセボ(=偽薬)とで眠気を比較した臨床研究では、4日続けた時点でプラセボとの差がなくなりました(注2)。「抗ヒスタミンによる眠気は飲み続けていると次第に目立たなくなる」という事実はとても重要です。
逆に言えば、アレルギーの薬による眠気も、4日以上服用を続ければ耐性ができて気にならなくなるはずです。風邪薬もそうです(そんなに長く服用する機会はないかもしれませんが)。
・風邪薬の眠気はアレルギーの薬の「抗ヒスタミン作用」によるもの
・抗ヒスタミン作用による眠気は毎日服用していると次第に目立たなくなる
余談ですが、風邪薬を飲んでも風邪が早く治るということはありません。基本的には「風邪によるさまざまな身体の辛さを軽くしてくれる」だけの薬です。なので、必要性を感じなければ無理に飲まなくても良いでしょう。
大事なことなので、もう一回言います。風邪薬を飲んでも風邪が早く治るということはありません(啓発活動だと思って、風邪薬の処方を希望する患者さんにはいつもそう言っているんですが、それでも欲しいという方も少なくなくて、無理に断るのも申し訳ないので、仕方なく処方しています)。
それから、風邪はウイルス感染が原因です。混同されがちなのですが、ウイルスは細菌と比べるとものすごーく小さくて、抗生剤は効きません。普通の風邪の場合、細菌感染はしていないので、抗生剤を飲む必要はありません。
ただし、僕のように中耳炎になった場合や、そのほか扁桃炎など、細菌感染の場合には抗生剤を飲まないといけません。その場合は症状が良くなったからと言って、途中でやめないように。
僕も抗生剤をきちんと一週間飲みました。抗生剤を飲む場合は、ぜひ最後まで飲みきってくださいね。
<参考文献>
(注1)Brown RE, Stevens DR, Haas HL. The physiology of brain histamine. Progress in neurobiology. 2001;63(6):637-72.
(注2)Richardson GS, Roehrs TA, Rosenthal L, Koshorek G, Roth T. Tolerance to daytime sedative effects of H1 antihistamines. Journal of clinical psychopharmacology. 2002;22(5):511-5.
文・資料提供:リズムアンバサダー 松井健太郎