やわらかなアンビエント・ミュージックがかすかに流れる中、軽く目を閉じる。低く暖かい男性の声が、わたしたち参加者の息をゆっくりと深いものにリードしていく。「さぁこれから90分、ロンドンの速いペースから落っこちていきましょう」という言葉に、ああ少なくともこのセッション中は思いっきり落っこちるぞ!と口元が緩みます。
誰もが早足のロンドン都心にもほど近い住宅街のスタジオで開かれている「エアリアル・リラクゼーション・ポッド」は、ユニークなスタイルで人気のリラクゼーション・リトリート。参加者は、スタジオの梁から吊り下げられた青いハンモック(ポッド)に入り、心理療法士セス・ニューマンさんのリードで深いリラックスを得るというものです。
まずこのよく伸びる青いジャージ布のハンモックが最高に心地よく、お腹の中の赤ちゃんのように丸くなるのも、うーんと伸びをするのも自在。ブランコのようにユラユラと揺れているだけでうっとり。自分が青い二枚貝の身になったような気分です。
セスさんが、ゆっくりとした呼吸から、呼気にのせて長いハミングをしてみましょうと言います。声を出すのは恥ずかしいような気がして、ちょっと小さな声で「ンンンンンン……」。周りのポッドからも大小・高低のハミングが聞こえてきます。
繰り返していると、自分の声の振動が頭蓋骨に響いているのがわかり、次第に指先、お腹にまで振動が行き渡るのが感じられて気持ちがよくなってきました。ンンンンンン……。ザザー、ザザーと波の音が聞こえてきます。青い二枚貝は波打ち際で眠りと覚醒との間に漂いながら、海の振動に合わせてハミングしているのです。遠くからは女性の歌声がかすかに。船を難破させるというセイレーンの歌声はこんな感じだったのかしら。時々、ゴーンという低い鐘の音も。
ウトウトしていると、ハンモックが気持ちよく揺れていることに気づきました。気づかないほどわずかに揺らしてくれていたようです。ラベンダーかゼラニウムの精油のような香りもしたような、それとも気のせいかもしれません。
気持ちのいい時間は経つのが早いようです。さあ息をゆっくりと吸ってみましょうという声に我に返り、セスさんの指示で指先、足先を動かして目を覚ましていきます。体が重く感じるのは、リラックスできた証拠でしょうか。
言ってしまえば、薄暗く暖かい部屋でやわらかいハンモックに寝て、呼吸法や音楽で瞑想のような状態に導いてもらうというのがこのセッションです。けれど、セスさんの語り方、間合い、その場で奏でられる打楽器やシンガーのディアナさんの歌などの調和具合がすばらしく、終わったときには深い満足感と暖かい気持ちが得られたように思います。最後は子どもに戻ったような気持ちで、他の参加者の人たちとハグをして解散しました。
アンビエント・ミュージックやヨガ、瞑想といったものはもはや珍しくもなんともないし、多くの人がある程度は経験があると思います。けれど、ジャンルにとらわれずにそれらのいいところを集め、誰でも手軽(1セッションおよそ2000円)に活用できるこのようなセッション、じつはけっこうニーズがあるのではないでしょうか。
スタジオを出てロンドンの空気にあたったとき、ああ自分のためのいい時間を持てたな、と感じました。
●Aerial Relaxation Pods (Facebookページ)
https://www.facebook.com/AerialRelaxationPods/
●セスさんとお仲間のオリジナル楽曲はこちらで聞くことができます。
https://urubu.bandcamp.com/track/relaxing-piano-bliss-out
文・写真:青木陽子, Aerial Relaxation Pods