2000年に浦和レッドダイヤモンズに加入して以来、長年Jリーガーとして活躍してきた鈴木啓太さん。2006年、オシムジャパンでは不動のボランチとして日本代表でも活躍し、2007年には2年連続でJリーグベストイレブンに選出。さらにサッカー担当記者選出による2007年度のJリーグ年間最優秀選手賞も受賞するなどコンスタントに活躍し続け、多くのサッカーファンに愛され続けている。
前回の<<サッカー元日本代表・鈴木啓太が語る、身体のリズムの整え方>>に続き、プロサッカー選手、鈴木啓太さんのトレーニングに関する話を伺います。
—— クラブでの練習とは別に、身体をメンテナンスするためにやっていることって、何かありますか?
もちろん、あります。ストレッチを毎日、2年ほど前から始めました。また、パーソナルトレーナーを付けたトレーニングも続けています。
特にパーソナルトレーナーを付けたトレーニングというのは20代半ばからやっていますね。
—— パーソナルトレーナーを付けたトレーニングですか。
はい。もちろん、チームでも専属のトレーナーが何人かいて、それぞれ選手ごとに身体を見てくれるのですが、どうしても限界がある。すべてに時間をかけて見てもらえなかったりするんです。
リハビリ専門の人が1人と、その補助の人が1人。その他にトレーナーが3人いて、ドクターも常駐しています。Jリーグのなかでは他のクラブに比べても多いほうでしょうし、恵まれている環境だと思います。
とはいえ、個々人のコンディションが違うので、さらに自分の身体のコンディションやパフォーマンスをより良くするために、パーソナルトレーナーを付けてトレーニングする選手はけっこう多いんです。
僕も細かく見てもらいたいので、パーソナルトレーナーに面倒を見てもらっています。ストレッチも毎日やっていますね。
—— 毎日やるストレッチやトレーニングは、どんなメニューでしょう?
基本的には、コンディションを整えたり疲れを取るためのストレッチと、動きを改善するためのストレッチですね。動きを改善するというのは、可動域を広げるためのもの。手の関節だとか股関節といったいろんな関節の可動域を広げることで、運動時のパフォーマンスが向上するんです。
僕らのようなサッカー選手は、毎日、身体を動かしてストレッチをしていますけど、1人で行うストレッチというのには限界があるんです。1人でストレッチをするのと、他の人に見てもらいながらストレッチするのとでは、全然違う。
例えば、鏡の前で自分1人でストレッチをしても、自分の姿勢が本当に正しいものなのかどうかは、鏡でチェックしていてもわからなくなります。やらないよりはいいですけど、重心がもうちょっと後ろにあったほうがいいだとか、もう少し前のほうがいいといったこともあるんですよね。
パーソナルトレーナーに自分の姿勢や動きを客観的に見てもらって「あの時の動きはこうでしたよね」と指摘を受けることで、自分のその時の実際の動きとイメージしていた動きのすり合わせを行います。そうすることによって、「もうちょっとこうしたほうがいいのかな?」とか、感覚的にわかってくる。
イメージ的に言うと、自分の身体の動きや姿勢を “分解”するのが、個別にやるトレーニングやストレッチなんです。そこでしっかりチェックしておかないと、ちょっとした姿勢のズレが出てきてしまい、それがチーム全体で練習したときに、さらに大きなズレとなって出てきてしまう。
だから、“第三者の目”が必要なんです。
—— クルマのエンジンで言えば、パーツごとに一回分解して、磨いてから元の形に戻すといったようなイメージですか?
ああ、まさにそうです! ちょっとした身体や姿勢のズレを少しずつ修正していくんです。
でも、そこで大事なのは、自分の感覚やイメージと合っているのかどうかということ。
ストレッチやトレーニングをしながら、ボクはトレーナーと常にディスカッションをするんですね。トレーナーはこう言っていたけれども、「こうやったほうが動きやすかったよ」とか。確かにトレーナーは専門知識を持っているけれど、アドバイスが100%正しいかというと、そうでもないので。
セオリー的にアドバイスは正しいのかもしれないけれど、人それぞれに感覚、感じていることって違うじゃないですか。時には自分の感覚を大事にして、自分が動きやすい状態をキープできるようにしたいんです。
だから、自分の感覚を伝えながらディスカッションして、いつもチェックするようにしています。
—— 一般の人でも、普段のトレーニングやストレッチをする時に鏡の前で動きや姿勢をチェックするのは効果があるんでしょうか?
もちろん、効果はあると思いますね。ただ、どんなトレーニングやストレッチにも基本的な動作や正しい姿勢っていうのがあると思うので、それをわかっていなければ、いくら鏡の前でチェックしても意味がありませんよね。
だから、まずは最初にそういった基本的なところを専門的な知識を持つトレーナーに見てもらうほうがいいでしょう。
それで基本動作や正しい姿勢がわかったら、普段は鏡の前でやってみる。あとは、数週間とか数か月に1回でもいいので、トレーナーに見てもらってチェックする。それをフィードバックしてまたやってみるというようにするのがいいでしょう。
—— ジョギングなどは健康維持としていかがですか?
自分を追い込んで必死にやる必要はないですけれど、20〜30分程度、毎日軽く走ったりするのはいいですよね。散歩でもいいと思うんです。
その時にも、気をつけたほうがいいのが姿勢。姿勢っていうのは、トレーニングに限らず、生活すべてに関わってくるものであって、実はものすごく大切だと思うんです。すべての動作の基本にあるのが、姿勢ですから。
実は、家事をするといったことでも充分なトレーニングになりますよね。身体を動かして何かをしていれば、それはすべてトレーニング。ただ、さっきも言いましたけど、その時にどういう姿勢でやっているかが大事なんです。
例えば、キッチンで食器を洗っている時でも、腹筋にちゃんと力を入れて立っているだけで、けっこうな筋力を使っているはずです。ところが、最初は意識していても、だんだん前かがみの姿勢になってくるんですよ。そうなるとトレーニングではなくなるんですね。
だから、ピンと背筋を伸ばした姿勢をキープしてやるといいんです。それは、階段の上り下りでも同じですし、何かを持ち上げて運ぶ時なんかも、姿勢を意識してキープしていれば、それこそどんな動作もトレーニングになりうるわけです。
そういう意味では、正しい姿勢のポイントさえおさえておけば、「トレーニングするぞ」って構えて何かやろうとしなくても、健康体に近づくことができると、僕は思うんです。
正しい姿勢のポイントを解説する鈴木啓太さん
—— 最近は、パーソナルトレーニングも流行ってきています。
絶対にそちらのほうがいいと思いますね。DVDなどを見ながら我流で始めるより効果が早く出ると思います。費用対効果というか、最初はパーソナルトレーニングをしたほうが結果的に費用も安くすむんじゃないかな。
—— 体重や体脂肪といった数値などを普段からチェックしたりするんですか?
もちろん、していますよ。
体重や体脂肪などは当然のこと、最近は尿とか血液も調べています。尿は1週間に1回、血液は2〜3か月に1回くらいですかね。常にいろんな数値をチェックして、体調管理をしていくっていうのは、やはりプロ選手としてはとても大切なことなんです。
今はどこのクラブでも同じようにやっていると思います。
—— 昨シーズン、スタメン出場が続いている途中で体調を崩したことがありましたよね。
不整脈でした。その時の精神状態だったり、前日の過ごし方というのが良くなかったのかもしれませんね。試合前のコンディションは慎重に整えていかないといけませんね。
それ以来、特に脈拍に関しては、トレーニング中にチェックするようにしています。普段の生活のなかでは症状は出ないんですけれど、一定以上の負荷がかかると乱れることがあるんです。特にサッカーをやっている時には気をつけるようにしています。
—— 最後に、奥さんはモデルの畑野ひろ子さんですが、ご夫婦で一緒にトレーニングをしたりするんですか?
しますよ。ボクがパーソナルトレーナーになって、トレーニングさせています(笑)。
基本的なトレーニングですけど、バランスボールやストレッチポールを使って、筋膜の縮みやねじれを解放する筋膜リリースみたいなことをしてから、ちょっと体幹トレーニングをしたり、腹筋や背筋のトレーニングをしたりしていますね。
トレーニングにもいろいろありますが、一般の人にとって最も大切なのは、太股の筋力をアップさせることなんですよね。どちらかというと、女性の場合、ダイエットをメインに考えがちじゃないですか。でも、ダイエット中に代謝が落ちると、どうしても太りやすくなりますよね。
人間の身体のなかで一番大きい筋肉というのは太股の筋肉です。だから、太股の筋肉というのはとても大切で、その筋肉が落ちてしまうと代謝が悪くなってきます。これは老若男女関係なく同じことなので、とにかくカミさんにはスクワットをやらせています(笑)。でも、最終的には「つべこべ言わずに走れ!」って言ってますけど(笑)。
例えば、夫婦や家族で、お互いに普段から姿勢をチェックし合いながら生活するだけでも、それを1年、2年と積み重ねていけば、身体はずいぶん変わってくるんじゃないかと思いますね。コミュニケーションも増えますし。
—— 今日はためになるお話、ありがとうございました。僕も毎朝のジョギングでは姿勢に気をつけてみたいと思います! 次回は、食について伺わせてください。
どうぞ宜しくお願いします。
取材・文:國尾一樹
写真:たつろう
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