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元ラグビー代表メンタルコーチ・荒木香織「世界で闘える心の鍛え方」Vol.6

元ラグビー代表メンタルコーチ・荒木香織「世界で闘える心の鍛え方」Vol.6

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元ラグビー代表メンタルコーチ・荒木香織「世界で闘える心の鍛え方」Vol.6

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2015年にイングランドで開催されたラグビーW杯の初戦で、強豪である南アフリカ相手に互角以上に渡り合い、逆転トライを決めて劇的な勝利を挙げたラグビー日本代表。その勝利は、日本のみならず、世界を震撼させ「世紀の番狂わせ」と絶賛された。その裏の立役者として、一躍、注目を浴びることになったのが、代表を“世界で闘える集団”に創り上げていった、メンタルコーチの荒木香織さん。

『ラグビー日本代表を変えた「心の鍛え方」』(講談社+α新書)の著者でもある荒木さんに、ラグビー日本代表への想いや、普段の生活リズムを整えるためのヒントになりそうなメンタルスキルなどについてお話を伺いました。

今回は、W杯初戦、南ア戦で決めた劇的な逆転トライをなぜ、日本代表が決めることができたのか、その理由についてお聞きしました。

考えながら進んでいった4シーズン

——これまで、ラグビー日本代表に何が足りなかったのかといった話をお伺いしてきましたが、世界中が世紀の番狂わせと絶賛した大金星を挙げることができたのは、何が変わったからなのでしょうか?

いろいろありますが、ただひとつ、根源的な話をすれば、「自分たちで考えられるようになった」からだと思います。練習メニューを与えられて、「今日はこの練習をします」と言われて、ただその通りに身体を動かすだけではなくなったからこそでしょう。

ナゼ、この練習をするのか、この練習がどのようなことに繋がるのかといったことだけではなく、うまくいかなかったらどうすればいいのか、などなど……。それさえもわからないのであれば、練習以外で、どういうコミュニケーションを誰と取ればいいのかとか、エディーさんから与えられた練習メニューをもう少しうまくやるにはどうしたらいいのかといったこと。

そんなことを自分たちで考えながら、できることは維持しつつ、できなかったところをみんなで工夫しながら、どうすれば克服できるのかと、ひとつひとつ考えていきました。さらに、さまざまな課題への対策を練り直しながら進んでいけた4シーズンがあったからこそ、変わり続けていくことができたのではないかと思います。

自主性が育ったからこそ、変わることができた

——選手たちが自主性とか、主体性を持つことから、すべてが始まったということですか?

そうですね。ラグビーというスポーツは、戦術として考えることがものすごく多いので、与えられた方法をただこなそうとしていてはダメなんです。場面、場面で自分たちはこっちのほうが動きやすい、やりやすいと思うものを提案、選択することが大切ですが、それを常に話し合い、実践することができるようになりました。

代表選手たちは、準備期間で80人前後も入れ替わっているんです。毎回、隣でプレーする選手が違っていたりということもあったわけです。

だから、コンビネーションなどでも、選手たち自身が主体性を持って、選手同士で積極的にコミュニケーションを取らないとなかなかうまくいかないことが多い。

だからこそ、「自発的に取り組もう」「自分たちのラグビーをしよう」という、強い想いが生まれていった。これぞ、まさに世界基準のメンタルだと、私は思います。

4年目のシーズンの最も重要なキーワードは「自主性」だったのですが、このキーワードが徹底されたからこそ、ラグビー日本代表は大きく変わることができたのだと思います。

日本人選手の“当たり前”を切り崩したい

——日本代表という、国内トップアスリートでさえ、やはり、自主性というのはなかなか育たないものだったんですね。

なかなか、育たないですねぇ……。少年野球や少年サッカーなどの練習を週末に見に行ってみるとわかりますが、大人である監督やコーチに怒鳴られた子どもたちが、ロボットみたいに動いているだけなのではないかと感じるような光景が、よく見られます。

ちょっと何かあると、指導者が集合をかけて、怒鳴るように指導する。そして、子どもたちは考えることなく、「はい!」と言うだけで、またポジションに戻り練習をやり直すといった感じです。

内容も、ひたすら反復練習といったことがあまりにも多い。あんなに何回も、何回も同じ動きをすることなんて試合ではあり得ないというのに、何度も繰り返します。本番となる試合では想定する必要もないことばかりを繰り返しているのです。

さらに部活動では、年度が変わって学年が入れ替わると、また同じ練習を繰り返すことが多い。何も考えないで、ただ、与えられた練習メニューに従って、身体を動かしているだけ。それをずっと繰り返すというのは、おかしいと私は思うんです。

——練習自体がルーティン化すると、選手はますます主体的にものごとを考えなくなりそうですね。

もう、何も考えなくなっちゃいますよね。確かに反復練習をたくさんすることがいいと思う人は多いのかもしれないですけれど、特にラグビーのような組織立った戦術にフレキシブルに対応しなければならないスポーツなどでは、致命傷になりかねません。

とりあえず、日本人選手の“当たり前”をなんとか切り崩したい。違うモノ、新しいマインドにしていきたい。そのための4シーズンだったと思います。

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「歴史を変えるのは誰だ!?」という選手たちの想い

——南ア戦の最後の最後で、選手たちがショット(プレースキックでペナルティゴールを狙うこと)で同点を狙いに行くのではなく、トライを選択して見事、逆転トライを決めた場面は、まさに、自分たちで考えることの成果が出た瞬間だったのでしょうか?

南ア戦の前から、そういう場面はいくつかありました。でも、あの瞬間、エディーさんは、「ショット」の指示です。選手は結局トライを選択しましたが。

実は、3シーズン目の目標は「歴史を変える」。選手たちが子どもたちやラグビーファンの憧れの存在となれるように努力をして、ラグビーの歴史を変えようと、メンタルのセッションで考えた目標でした。

なぜなら、テストマッチで連勝をし続けていたにもかかわらず、あまりインパクトを与えることもできず、なかなか注目されなかったからです。もちろん、取材もあまりされずに寂しい想いをしていました。

そこで、選手たちは、もっともっと練習をして、いいプレーをする。そして、いいラグビーをすれば、絶対に観客も増えてくるだろうし、多くのファンの応援を力に変えて、日本ラグビーの歴史も変えられるだろうと思ったのです。

だからこそ、ラグビー日本代表というのは、勝つことが目的なのではなく、一貫して、“チームを創り上げること”を目標としてきたのです。子どもたちの憧れの存在になれるような、歴史を変えることができるチームにしようと取り組んできた。

そんな流れがあったので、南ア戦でスクラムを組んでトライを取りに行こうとなった時、選手たちは「歴史を変えるのは誰だ!?」と叫んでいたんです。あの時の選手たちの姿は、今でも忘れられません。

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2013年のミニ合宿にて、NZ戦に向けて選手たちの書いた寄せ書き(写真提供:荒木香織)

南ア戦の劇的逆転トライは、4シーズン目のキーワードから生まれた

——歴史を変えるために、まさに選手たちは自分たちの意志で動いた瞬間だったんですね。

最後の4シーズン目のキーワードは「自主性・主体性」でした。あの場面では、もうショットで同点を狙いに行くのではなく、選手全員が自分たちを信じて、逆転トライを狙っていました。五郎丸選手も、蹴りに行く気配はまったくなかったですよね。

選手もスタッフも含め、チーム全員が自分たちの判断で、エディーさんの指示に背くことになった。もう、その瞬間、エディーさんは。ものすごい顔してましたからね(笑)。「おまえら、この場面でオレを裏切る気か!」みたいな。

歴史を変えた、あの時の盛り上がり

——なぜ、エディーHCだけが、ショットという判断をしてしまったんでしょうか?

それは、エディーさんが石橋を叩いて渡るタイプではないように見えて、実はそうだったからなのかもしれません。

しかし、彼が鍛え上げてきたチームは、あの場面で同点狙いに行くなんて考えは一切しないで、逆転を狙いに行くという判断ができるくらい、世界で闘うマインドを手に入れていたんです。

初戦が終わった日の夜、選手たちと話をしたのですが、4年目の最大のテーマだった自主性・主体性が光った瞬間だったという話になったんです。「自主性がキタね」って。選手たちはもう、満面の笑みでしたよ。

——4シーズン目の最後のテーマである「自主性・主体性」の力が、あの最後の逆転トライで花開いたということですよね。

そうですね。本当に劇的な勝ち方でしたから。あの時は、サインは何もなかったから、コンビネーションをどうするといったことも何もなかったんです。ただ、選手たちが自分たちで「今、するべきこと、成すべきことは何なのか」を瞬時に考えて、行動した。

今、思い返してみても、みんなの判断と動きすべてが一致した最高の瞬間でした。まさに、日本ラグビーの歴史を変えるトライだったと思います。

取材・文:國尾一樹
写真:宇野真由子

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