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元ラグビー日本代表メンタルコーチ・荒木香織「生活リズムを整えるためのスキル」Vol.1〜心の準備をするためのメンタルスキル〜

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元ラグビー日本代表メンタルコーチ・荒木香織「生活リズムを整えるためのスキル」Vol.1〜心の準備をするためのメンタルスキル〜

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イングランドで2015年に開催されたラグビーW杯の初戦で、強豪・南アフリカを相手に逆転トライを決め、“世紀の番狂わせ”と絶賛されたラグビー日本代表。その陰の立役者として注目を浴びることになったのが、日本代表のメンタルコーチを務めた荒木香織さん。

選手ひとりひとりと話し合いながら、個々のメンタルを鍛えていった経験を元にまとめた『ラグビー日本代表を変えた「心の鍛え方」』(講談社+α新書)の著者でもある荒木さんに、アスリートではない一般の人でも、普段の生活リズムを整えるためのヒントになるメンタルスキルの話をお伺いしてきました。

今回からは、実際にアスリートではない一般の人でも実践できる、役立つメンタルスキルの話をご紹介していきます。今回は、五郎丸ポーズで知られるルーティンの話と、それを一般の人たちが活用するためのヒントについて、です。

五郎丸ポーズで話題になった“ルーティン”とは⁉︎

——W杯では、日本代表の活躍と共に、五郎丸選手がキックを蹴る前に必ず行っていた独特のポーズが話題になって、ルーティンという言葉も広く知られるようになりました。荒木さんはその五郎丸ポーズの生みの親であるといわれていますよね?

少し前屈みになって両手を組む五郎丸選手の動作が話題になりましたけれども、キックを蹴る前に彼が行う、あの一連の動作は、正式には「プレ・パフォーマンス・ルーティン」といいます。

パフォーマンスの前に行う準備のことで、確かに、五郎丸選手と私とで、3年間かけて作り上げていったものです。

五郎丸選手は、早稲田大学時代からずっとキッカーを務めてきていて、国内では屈指の成功率を誇っていました。しかし、世界で闘うためには、安定感や確実性をさらに高めていく必要があったので、私が任されることになったというのが、いきさつです。

よく、ルーティンとゲン担ぎを混同する人がいらっしゃいますが、別ものです。ゲン担ぎは、メンタルスキルなのではなく、単なる迷信だといっていいでしょう。

ルーティンというのは、あるパフォーマンスを行う時に生じる様々な雑念を取り払って、ルーティン、つまり、“準備を正確に行うことだけに集中するために行う動作”であり、スポーツ心理学の理論に基づいた、メンタルスキルなのです。

ルーティンがもたらす4つの効果

——ルーティンを行うことで、どういった効果があるのでしょうか?

ルーティンがもたらす効果は、大きく分けて4つあるといわれています。第一に、その動作をすることで、続くプレーをスムーズに行えるようになることです。五郎丸選手の場合は、一連の動作をすることで、身体がキックを蹴るための準備を行えるようになります。

2番目の効果として、外的、内的障害の排除です。外的なものとは、ブーイングや相手チームからのプレッシャーなど。「キックが入らなかったらどうしよう」といった、選手自身の不安や心配というのが、内的な障害です。こういった外的な障害と内的な障害をルーティンに集中することで取り除くことができるのです。

3番目の効果として挙げられるのは、プレーが修正しやすいということ。ルーティンでは同じ動作をして準備をします。そのため、パフォーマンスがうまくいかなかった時、いつも行うルーティンの動作を微調整するだけで、次への成功に結びつけることができます。

最後の4番目としては、ストレスの軽減ですね。例えば、試合中に自分が対応できないと思った出来事があると、「脅威」と捉えてしまいます。そして、選手にとって、その出来事はストレスとなってしまうのです。そのストレスに対応する役割がルーティンにはあります。目の前のキックを「挑戦」と受け止め、遂行できるようになるのです。

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五郎丸選手らW杯代表メンバーと共にW杯終了後、帰国前に記念撮影(写真提供:荒木香織)

——五郎丸選手は、ルーティンを行うことで、パフォーマンスがアップしたのでしょうか?

W杯は、当時のヘッドコーチであったエディーさんは、五郎丸選手に「成功率85%」を要求していました。大会中、五郎丸選手はキックを27本蹴って、20本を成功させています。成功率は約74%と、残念ながら目標の85%には届きませんでした。

しかし、グループリーグでは、トライを含めて4試合で58得点をマーク。出場選手中2位という好成績でしたから、素晴らしいパフォーマンスを発揮したといえるのではないでしょうか。

W杯後、五郎丸選手は「ルーティンがあって良かった。なかったらどうなっていたかと思うと、ゾッとする」と言っていました。五郎丸選手は、ルーティンというメンタルスキルをしっかりと体得できたので、これからも安定したキックを披露してくれるはずです。

3年間かけてじっくり作り上げてきたこのルーティンは、彼のこの先のプレイヤー人生のなかで、大きな財産になることでしょう。

アスリートではない人のためのルーティンとは

——五郎丸選手のようなルーティンを、アスリートではない一般の人も何かひとつ持っておくと、仕事上などの勝負どころで役立つのではないか、などと素人考えで期待してしまうのですが、どうなんでしょうか?

結論から言いますと、一般の人にルーティンは必要ないと思います。五郎丸選手は、試合中にキックをするという重責を担っています。しかも、ものすごく短い時間のなかで心を切り替えて準備をするために、内的・外的障害を断ち切らないといけない。そのためにルーティンをやるわけです。

ほんの数秒の間で自分の気持ちをコントロールするためにも、身体の準備をするためにもルーティンが必要なのです。

しかし、一般の人の場合、今日、必ずこの資料を提出してプレゼンをしないといけない、あるいは自分の実力が試されるような書類を出さなければならないといったことに関しては、そのために時間をかけて準備をしてきているわけです。

ですから、ルーティンのような決まり事をする必要はありません。パフォーマンスルーティンというのは、パフォーマンスをする前に短時間で準備をするための動作なのです。

ですから、ほとんどの人は何かルーティンを作り上げる必要はないでしょう。普通に、時間をかけてそのための準備をすればいい。ルーティンというのは、何かの魔法のようにイメージされる方がいらっしゃいますが、魔法ではありませんから(笑)。

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メンタル面を整える方法を持つようにする

——例えば、試験に向かう受験生であるとか、特殊な重圧がかかる環境に身を置く方が、そういう時には、何かルーティンを持っておくことはできないのでしょうか?

そういう意味では、どうしても魔法が欲しいという人も多いでしょうね(笑)。実際に、自分のためのルーティンを作りたい人のために、何か紹介して欲しいと訊かれることが取材ではものすごく多いです。

準備をしっかりとして、メンタルを整えるという意味で言えば、例えば、受験生であれば、試験開始前に「鉛筆がちゃんと削られているかどうかを確認する」ですとか、回答終了後に、適当な時間帯を見計らってケアレスミスがないかどうかを確認するといったことをルーティンにするのがいいと思います。

鉛筆はちゃんと3本あるし、消しゴムもある。時計もちゃんと用意をして時間もわかる。そういう確認作業をルーティンにしておけば、その人にとっての準備が完了しますよね。

何に関してもそうですが、長い時間をかけて準備してきたものでも、本番に臨む直前に確認作業をして、心の準備をする。それが、基本になると思います。

そういう意味での、“準備のためのルーティン”を何かひとつ持っておいて、それを日常的に実行するというのは、いいことだと思います。

取材・文:國尾一樹
写真:宇野真由子

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