大手広告代理店などを経て独立後、マーケティングコンサルティング会社「レヴォレーター」の代表取締役となった板谷俊明さん。
現在は「OUTDOOR for EVERYONE!」をテーマに、ハードルを低くすることでアウトドアを多くの人々に楽しんでもらうための活動を積極的に行っている。
情報サイト「PAPA PRESENTS」を核にして、アウトドアの基本が学べるサイト「ソナエル.tv」や、アウトドアを通じて子育てをする「ソトイク.jp」、日本最大級のキャンピングカーレンタルサイト「CAMP IN CAR」なども展開するアウトドアマスターである板谷さんに、アウトドアやキャンプの魅力などについてのお話や、初心者がキャンプを楽しむためのアドバイスなどを伺いました。
第2回は、アウトドアやキャンプなど、好きなことを仕事にしようと決意することになったお話です。
——板谷さんのアウトドアライフというのは、常にクルマとセットになったものだったのでしょうか?
父親は、アウトドアに行くためにクルマを使う感覚でしたが、ボクはオフロードを楽しむためにクルマを使う。そこに、アウトドアがくっついてくるという感覚でした。冬になると、四駆で冬山に行く「雪中行軍」というのをやっていました。
雪が積もって、誰も入らない林道をひたすら走り回る。そして、それぞれのクルマで1泊して帰るというものです。気温はマイナス8℃とか、むちゃくちゃ寒いんですけど、誰かがドラム缶を持ってきて、その中に薪をくべて、たき火で暖まりながらタープの下で過ごすんです。
冬山だとまったく人がいないので静かだし、空気も澄んでいるので、晴れていれば星がものすごくキレイに見えます。みんなでたき火を囲んで夜になるとお酒を飲みながら語り合うのが、また楽しかったですね。
——そういったクルマとアウトドアを楽しむというのは、社会人になってからも続けていたのですか?
大学生の頃は、四駆もアチコチにガタがきてしまっていたのですが、お金がないので、なかなか修理に出せない。最後はもう、ボロボロになってしまいました。「就職したら、絶対にいいクルマを買うぞ!」と決めていて、就職と同時に新車でジープを購入して、最初からバリバリのオフロード仕様に改造していました。後に、結婚して妻になった当時のカノジョも一緒に雪中行軍に行ったりもしていました。
子どもが生まれるまでは2人だけだったから、ジープで寝泊まりしながらアウトドアを楽しむということができましたが、結婚して子どもができると一変します。
私には2人の娘がいるのですが、長女が生まれると、すぐにジープにチャイルドシートを取り付けたんです。でも、バリバリのオフロード仕様なので、当然、車高が高い。よく左右に揺れるんですよ。ある日、ルームミラーで娘の様子を見たら、ものすごい勢いで子どもの首が揺れていたので、これはいかん!と思って、普通の四駆に買い換えることにしました。
その後、次女が生まれたこともあって、どんどん家族でアウトドアを楽しむ方向に変わっていって、幼い子どもでも快適に過ごせる環境を追い求めるうちに、キャンピングカーに興味を持つようになっていきました。
——そこからキャンピングカーを所有するようになっていったんですか?
長女が4歳、次女が1歳の時に、転職をしたんです。その時に、有給を使って九州を1周する旅をしようということになったのですが、まだ下の子が小さかったこともあって、キャンピングカーを福岡空港で借りたんです。それが、初めてのキャンピングカーの旅でした。
キャンピングカーで旅を経験してみると、いつでもどこでも寝ることができるから、小さい子どもを連れての旅にはとてもいい。翌年には沖縄をキャンピングカーで1周する旅をしましたが、そこで、ますますキャンピングカーの魅力にハマってしまいまして(笑)、いつか自分でキャンピングカーを持ちたいと思うようになっていきました。
——そして、ついに憧れのキャンピングカーを手に入れた、と。
広告代理店で7年間、ITベンチャーの会社で3年間働いた後に、マーケティングコンサルティングの会社を立ち上げて独立したのですが、その時に、キャンピングカーを事務所にしようということで購入しました。トラックの上に居住スペースが付いた、いわゆるキャブコンと呼ばれる大きなサイズのキャンピングカーです。
中にWi-Fiも取り付ければネットも使えるし、プリンターも取り付けました。まさに、動く事務所ですよね(笑)。このキャンピングカーの中でいつでもどこでも仕事ができるという形で会社をスタートさせました。
会社の経営は順調でしたが、独立して5年目のことでした。副社長を務めていた相棒が会社を去ることになったんです。彼はずっとアパレルの仕事をしたいと思っていて、そちらの事業を立ち上げることにしたんです。一人になって不安でしたが、意外にも仕事は順調で、「一人でやっちゃうほうが儲かるな」とも思いました。
ところが、そううまくはいきません。自分で仕事を取ってきて、自分で企画書を作り、クライアントと打ち合わせをしたり会食したり……。睡眠時間を削る日々が続いてしまい、これは続かないなと思うようになりました。その時に、ふと考えたんです。「いったい、自分は何のために仕事をして生きているんだろう?」「オレは何がやりたくて独立したんだっけ?」と。
広告代理店にいた時は、発注する側にいて、独立してからは受注する側です。やり甲斐はありましたが、こういう業界で働くには、旬はだいたい40歳くらいまでです。それまでには、何かひとつ新しい事業を始めておきたいというのもありました。そんな時に、会社を離れる相棒が言った言葉が、心の中でリフレインしたんです。「板谷さんは何かやりたかったことはないの?」と。
そう聞かれた瞬間、「ん?」と一瞬考えたのですが、「自分にはこれだと明確に答えられるモノがないな」と思ったんです。それがどこか心の片隅でくすぶっていました。
——それがキッカケで、好きなことでチャレンジしてみたいと思ったのですか?
新規事業を立ち上げるためには、自分のモチベーションを常に保ち続けられるものでなければなりません。そのためには、自分が楽しめることを仕事にしなければならない。
だったら、自分が本当に好きなモノでチャレンジしたいと思いました。そのうえで、ビジネスとして成り立たなければ意味がない。そう考えてみたところ、やはりアウトドアだな、という結論に達したんです。
これは、マーケッターの発想ではあるかもしれませんが、ただ、アウトドアショップをやりますとか、キャンピングカーのレンタルビジネスをやりますというだけではなく、自分なりにアウトドアの魅力をプレゼンできる場をしっかりと作りたい。
その考えの根幹となったのが、「パパが一番カッコ良くいられる場所というのはアウトドア」なんだということ。その発想から、「PAPA PRESENTS」という事業を始めようと思ったんです。
アウトドアとかキャンプに憧れたりとか、興味はあるけれど、何から始めればいいのかわからないという人は、けっこう多い。そこをサポートできるようなサービスを始めてみたいと思うようになりました。例えば、キャンピングカー。特に最近は、欲しいと思っていたり、憧れている人はたくさんいますが、そうそう買えるものじゃない。でも、レンタルできるようになれば、グッとそのハードルは低くなる。
そういった、最初のハードルを下げるために、より良いモノをお手軽に提供できるサービスにトライしようと思って、今のビジネスを始めようと決心したんです。
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——好きなアウトドアで新規事業を立ち上げ、順調にいっているとなると、楽しそうですね?
お陰さまで、本当に毎日のストレスが激減しました。今では、一点の曇りもなく、「毎日が楽しい!」と言い切れますね。もちろん、体力的なこと、スケジュール的なことで大変なことも多いのですが、本当に自分がやりたいこと、好きなことを突き詰めて考えたうえで始めたことですから、それを乗り越えるだけの“強い心”と“想い”があります。
経営者の大先輩の方たちと話している時、経営者はビジョンを語れることが重要だと、聞かされてきました。そういう意味で言うと、私の会社は、今はビジョンしかないという感じ。こういうことがやりたいとか、こういうふうになりたいとか、伝えたいことばかりです。
酔っ払うと、社員の前では「アウトドア業界のディズニーランドを目指す!」なんて言ったりしているのですが(笑)、そういうのがいいんじゃないかなって思っています。広告代理店で働いていた頃は、どんなに面白い仕事をしていても、秘密保持義務があるので、ほとんど語ることができませんでした。ところが今は、自分のビジョンを思う存分語ることができるんです。
「今、どんなことをされているんですか?」と聞かれたら、「アウトドアで、遊びを仕事にしています」と答えています。「いいですねぇ〜!」と言っていただけるとうれしいし、話も弾みます。自分のビジョンや夢をどんどん語れるというのは、メンタル面でも、本当にいいことです。
もちろん、好きなことでビジネスを始めるとなると、想いだけではやっていけませんが、より多くの人にとってアウトドアが楽しくなるモノやコトについて、これからどんどん提案していったり、伝えていけたらいいなあと思っています。
取材・文 : 國尾一樹
画像提供 : ソトイク.jp / PAPA PRESENTS