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テントを使わない快適な雪中泊。イグルーの作り方とその魅力【特集:キャンプと火と】

テントを使わない快適な雪中泊。イグルーの作り方とその魅力【特集:キャンプと火と】

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テントを使わない快適な雪中泊。イグルーの作り方とその魅力【特集:キャンプと火と】

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より奥深いキャンプスタイルをピックアップする特集「キャンプと火と」。今回は、「雪」の分野の野営術として「イグルー」をご紹介します。
イグルーとは、北米の先住民・イヌイットが生み出した、雪で作るドーム型の住居。この「イヌイット版かまくら」を使った登山での雪中泊を実践し続けてきたのが、カメラマンの米山悟さんです。見た目も愛らしいイグルーですが、雪山においてはとても実用的で機能的なシェルターとなるのだそう。イグルーのスペシャリストである米山さんに、その作り方と魅力を伝授していただきました。

■特集:キャンプと火と
1. インタビュー:川口拓 「サバイバルな野遊び」ブッシュクラフトって?
2. 嗜好品としての炎を味わう。「火とアウトドア」の専門店「iLbf」の焚き火ガイド
3. 500g以下限定! 超軽量焚き火台を尾崎”Jacky”光輝さんとレビューしてみた
4. テントを使わない快適な雪中泊。イグルーの作り方とその魅力
5. 焚き火キャンプ場&スノーキャンプ場ガイド

イグルーの作り方

米山さんの案内でやってきたのは、長野県の白馬五竜スキー場。ゲレンデの最高点から少し奥に入った「地蔵の頭」と呼ばれるエリアです。ここで、実際にイグルーを作っていただきます。

「イグルーは、気温が0度以上にならない標高の高いエリアが作りやすい。特に、傾斜の変わり目などの雪が吹き溜まっているところが適しています。そういう場所は、ふわふわした新雪の下に圧雪されてほどよく締まった雪がある。この雪をブロック状に切り出して使うんです。氷点下のところであれば雪が解けて氷雪になっていないので、のこぎりの歯がスッと入って簡単に切り出せます」
イグルー作りに欠かせない3つの道具がこちら。雪を切り出すスコップとのこぎり、雪を扱いやすい耐水性のある手袋です。

「のこぎりはスノーソーではなく、ホームセンターで売っている剪定用のものがいいと思います。焚き火用に枝を切ったりと、他のいろんな用途でも役立ちますから。雪のブロックを切り出すためには、刃渡り30~40cmあるものがいい。手袋は透湿性があって蒸れにくい〈防寒テムレス〉というモデルがお勧めです」
雪山を進み、「ここがいいですね」と米山さん。雪が捨てやすい斜面の際の辺りに場所を見定めました。これから作るのは2~3人用のイグルー。しかし、スキーのストックで円を描いて示されたイグルー作りの範囲は直系1.5mほど。なんだか小さいようにも感じますが……。

「イグルーは雪面に建てるよりも、雪を掘り下げて作る方が理にかなっています。足元から雪のブロックを切り出していって60cmくらい掘り下げる。そして、掘り下げたところを横に広げてスペースを作るんです。ブロックを積むのは上半分の60cmほど。イメージとしては縦穴に蓋を被せるような感じですね。そういう作り方の方が手早く出来上がります」

場所を決めたらイグルー作り開始。足元の雪から、ブロックを切り出します。
1段目と2段目に積むブロックはなるべく大きく切り出すのがコツ。30cm×30cm×50cm程度のサイズが理想だそう。
ドーム状にするために、2段目からは内側にずらして積んでいきます。

「なるべくブロックの長辺を長くすると、お椀に箸を乗せるような感じで、内側に寄せながら上手に積めます。それから、しっかりと四角い形に切り出すこと。そうしないと安定せずに、積み上げていった後で崩れてしまいます。僕はガサツなので必要最低限の形でどんどん切り出してしまいますが(笑)」

多少雑に作っても成り立つのは、イグルーに精通する米山さんだからこそ。初心者は丁寧にブロックを作ることを心掛けた方が良さそうです。
ブロックに使える雪が60㎝以上積もっている環境が理想。しかし、この日は積雪量が十分ではなく、50㎝ほど掘ったところで地面に達してしまいました。足元以外の場所からも雪を切り出して足りない分を補います。

2段積み上げたところで、中で過ごせるだけの高さは確保できました。ここからは天井を塞いでいく工程に入ります。
こういった長方形のブロックで屋根にあたる部分を作っていきます。

「初心者が失敗しやすいのが屋根作りで、いつまでたっても天井が塞がらない煙突状になりがちです。裏ワザとしては、ピッケルやスキーのストック、針葉樹の枝などを渡して梁にする。そうすると塞ぎやすいんです。
それから、そもそものイグルーのサイズが大きすぎると上手くいきません。天井を支えるものがありませんから。3~4人サイズが限界で、たとえばメンバーが10人いる場合は3つのイグルーを作って連結させます」
だいぶ出来上がってきました。最後の方は、平べったいブロックを乗せるようにして天井を塞ぎます。
掘り下げたイグルーの内側から、板状のブロックを切り出します。
天井部分が塞がりました。ただ、まだ隙間がたくさんありますが……。

「イグルーは基本的に掘り下げて作るので、中に座った時に目線の高さが雪面くらいになります。ですから、寝ている時は風が吹き抜けても意外と気になりません。雪が降っていれば勝手に隙間が塞がったりもします。とは言え、猛烈に吹雪くような場合はしっかり塞いだ方がいいですし、どの程度隙間を埋めるかは条件によります」
隙間を埋めるには、積んだブロックの角などを切り取って活用します。
ある程度隙間を埋め、これにてイグルー完成! 所要時間はなんと40分。想像以上に短時間で、さらりと出来上がったことに驚かされました。

「高等な技術は必要ないですし、慣れてしまえばスピーディーに作れるのがイグルーの利点のひとつです。メンバーひとりが雪を掘り下げて、何人かでブロックを積むといったように工程を分担できれば手早くできますよ」

機能的で心地良いイグルー泊

完成したイグルーの中はこんな感じ。外部の音が遮断され、とても静かなので落ち着いた気分でくつろげます。そして、外よりもずっと暖かい!

「テントの場合、内部は外気とほとんど変わらない温度ですが、イグルーの中は0度前後。僕が雪山に行く時はテントを持たず、常にイグルー泊です。ツェルト(緊急用の簡易シェルター)は持って行きますが、それは標高が低い樹林帯などでイグルーが作りにくい場合のためですね。泊まるだけなら、ツェルトよりもイグルーの方がずっと暖かいし快適ですから」

こう語るように、米山さんがイグルー泊を実践し続けているのは、それが雪山において機能的な道具だからなのです。

「イグルーは、テントのように強風や雪で壊れる心配がありません。ブロックを積み重ねただけでも、雪の性質によってしっかりくっついて安定するんです。揺れもないので、悪天下でも安眠できる。テントを使わない分、荷物も軽くなります。
雪中泊では雪洞という手段もありますが、雪洞は2m以上は積雪がないと作れないので場所がかなり限られますし、掘るのに2時間はかかる。イグルーは50cmくらいの積雪があればどこでも手早く作れます」
いまや当代きってのイグルー名人である米山さんがこの野営術と出会ったのは、北海道大学の山岳部に所属していた学生時代のことでした。

「北大の山岳部は、まだテントがものすごく重かった戦前にテントの要らないイグルー泊を採り入れ、厳冬期の日高山脈で未踏峰の登山に成功しました。ただ、戦後は軽量なテントが登場したこともあって、北大でもイグルー山行は主流にはなりませんでした。
その後の84年に僕は入部したんですが、79年に知床で、積雪でテントが押し潰され3人が疲労凍死する痛ましい遭難事故が起こりました。この事故を省みて、テントが潰れた場合、安全な樹林帯までの逃げ場がない場所に泊まる山行の計画は立てられなくなっていたんです。そこで僕が目を付けたのが、半ば忘れられていたイグルー泊でした。山岳部の昔の記録を読みながら自己流でイグルーを始め、テントが信用できない過酷な状況でもイグルーなら快適にやり過ごすことができるのを発見したんです」

つまりイグルーは、雪山で身を守るための極めて有効な技術となるわけです。

「たとえば、猛烈な吹雪で身動きがとれず、現在地もはっきりしなくて出発したキャンプまで戻れないとなったら、その場にイグルーを作って過ごせばいい。ザックにマットとシュラフカバーさえあれば数日は大丈夫。ビバーク(緊急の野営)に不安がないんです。初めてイグルーを作った時は2時間くらいかかりましたが、4、5回作れば慣れますよ。頻繁に冬山に行く人は緊急時の防衛策として、イグルー作りをぜひ知っておいてほしいですね」
さて、そんなイグルー作りに初心者はどのようにチャレンジしたらいいのでしょうか?

「先にもお話したように、イグルー作りに向いているのは、氷点下の気温で雪が多いところ。スキー場の頂上付近はリフトなどでアクセスもしやすいし、イグルーを試してみるにはちょうどいいでしょう。キャンプ場でも、北海道などの寒い地域なら作りやすいと思います。
やっぱり気温が0度以下であるのがひとつの条件で、それより暖かいと天井が落ちて来たりしてしまいます。僕も5月くらいになったら雪山でイグルー泊をする時も屋根は作らずに、代わりにタープを貼ったりします。
逆に考えると、屋根をタープで賄うような〈なんちゃってイグルー〉なら、雪のあるキャンプ場ならどこでも作れると思います。そういうところから入ってもいいかもしれませんね」

米山 悟 Profile
1964年長野県生まれ。NHKカメラマン。北海道大学理学部卒業。
北海道大学山岳部に在籍していた時から約30年に渡ってイグルー作りとイグルー泊に取り組み、近年はイグルー普及の講習会も行っている。2016年に著書『冒険登山のすすめ』(ちくまプリマ―新書)を刊行。
https://www.yamareco.com/modules/yamareco/userinfo-826-prof.html

取材・文/Rhythm Ultra編集部 撮影/後藤秀二


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