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対談:堀田貴之 x 土屋智哉 スキーで旅する、自由な喜び【スキー再発見――登って、歩いて、滑るスキーをしよう】

対談:堀田貴之 x 土屋智哉 スキーで旅する、自由な喜び【スキー再発見――登って、歩いて、滑るスキーをしよう】

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対談:堀田貴之 x 土屋智哉 スキーで旅する、自由な喜び【スキー再発見――登って、歩いて、滑るスキーをしよう】

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特集「スキー再発見」は全5回の連載企画です。
そもそもスキーとは、雪原を「移動」するために考案された道具であり、ゲレンデを「滑る」ために使われるようになったのは、もっとずっと後のこと。連載のスタートである今回は、そんな移動のためのスキー=旅の道具としてのスキーに着目し、独自の旅の形を模索するおふたりに話を伺いました。

テレマーク・スキー※に傾倒する堀田貴之さんは、自然を旅する文筆家。バックパッキングやカヤック、そしてもちろんテレマーク・スキーなど、旅についての著作も数多く出されています。そんな堀田さんの著作に大きく影響を受けたと語るのは、東京都三鷹市にあるアウトドア・セレクトショップ「ハイカーズデポ」店主の土屋智哉さん。日本のウルトラライト・ハイキングを牽引する同店ですが、雪山を旅するための道具としてクロスカントリー・スキーも取り扱っており、「歩くスキー」を提唱しています。
※かかとが板に固定されないスキーのスタイルで、滑るだけでなく、歩いたり登ったりするもの。北欧で生まれ、雪山での移動手段として発展した。

これまでたくさんの旅を経験してきたおふたりの話は、お互いのスキー遍歴から始まり、いつしか「旅の本質とは何か」に向かいます。少々、面喰らう話題もあるかもしれませんが、「旅」や「楽しさ」や「自由」についてもう一度考えてみるヒントをもらえる、充実した対談になりました。

「旅の道具」としてのテレマーク・スキー

――堀田さんが傾倒するテレマーク・スキーは、発祥のヨーロッパで一度は忘れ去られていたものが、70年代のアメリカでオルタナティブなスキーとして再発見されリバイバルしたものだと聞いています。堀田さんはなぜ、数あるスキーのスタイルなかでも特にマニアックなテレマーク・スキーに傾倒されたのでしょうか?

堀田 20歳くらいのとき、いわゆる普通のゲレンデ・スキーを何回かやったんだけど、すぐ飽きて。で、40歳くらいのとき、冬の山に行きたかっただけなんだけど、それならばアイゼン履いて歩くよりも、こっち(テレマーク・スキー)の方が面白いんじゃないかと思った。

土屋 それは年代でいうといつ頃の話ですか?

堀田 それが21年前だから、90年代の後半だね。

土屋 その時代に日本でテレマークをしてた人たちって、皮の柔らかいブーツで山をスキーで登って、そのまま滑って降りれる、山を自由に移動できる道具であることに面白さを感じている人たちが多かった印象があります。テレマークって、滑るだけだったら通常のスキーの方が滑りやすいし、歩くだけだったらクロスカントリーやAT(アルパイン・ツーリング)スキーの方が歩きやすい。その中間みたいな形じゃないですか。でも、だからこそその両方ができる自由さだったり、面白さだったりを感じていたんじゃないかと思うんです。滑りやすさはたぶん、どうでもよかったんじゃないかな?

堀田 うん、僕はテレマークを滑る道具だとは思ってなくて、旅の道具だと思っている。それは当たり前で、踵を固定した普通のスキー板の方が、滑るってことに関しては絶対にパフォーマンスは高いから。

土屋 僕も堀田さんと同じで、冬も山に行きたいから雪の上で遊べる何かをやりたくて、バックカントリー・スノーボードを始めたんです。でも、30過ぎくらいのときに、「やっぱ俺は横ノリじゃなくて文化部じゃん」って思ってテレマークを始めたんですけど、一生懸命やりすぎて、足を骨折して(笑)。その頃、堀田さんの本(「テレマークスキー漫遊奇譚~転がる石のように」スキージャーナル社)もすごく読んでいたんですけれど、うまく滑るってことに重きを置いてない感じがすごくいいなと思ったんです。

ハイカーズデポでもウルトラライト・ハイキングの文脈で、旅する道具のひとつとしてクロスカントリー・スキーを取り扱っているんですけど、それは「スキーだからって滑らなくてもいいじゃん」って思うからなんです。「滑ろうと思うから大変なんだし、なんならスキー脱いで歩いて降りてもいいじゃん」って。でも、歩くのも登るのもスキーって絶対的に楽だから、もう「歩くスキー」って言っちゃおうと。うちがそう思えたのって、堀田さんのテレマークに対するスタンスだったり、旅の道具としてテレマークを見ていたりすることにすごく影響を受けたからなんです。

堀田 僕に影響受けるなんて、珍しい人だね(笑)。

――堀田さんは雪山を旅するための道具としてテレマーク・スキーを始めたとおっしゃいましたが、始める前に考えていたとおりのものでしたか?

堀田 思っていたとおり大変な思いばっかりしたよ(笑)。登りは暑いし、上に着いたら寒いし、滑ってもこけてばっかりだし、女の子にはモテないし。

土屋 雪山に女の子いないですからね(笑)。

――それでも感じた魅力とは?

堀田 僕は別に「テレマークが好き」という感覚ではなくて……「山が好き」ってのも、ちょっと違うんだよね。「ここにいたくない」っていう感覚が、いちばんかも近いかも。とくにこういう取材なんか受けていたくない(笑)。

――(笑)。

写真提供:野上健吾

土屋 「山登りがしたい」「トレイルランニングがしたい」「カヤックがしたい」「スキーがしたい」とか、特定のアクティビティに傾倒している人って多いけど、堀田さんは「旅がしたい」が先に来ている人だと思うんです。で、河を旅するならカヤックだし、雪山を旅するならスキーで登って滑った方がラクそうじゃん、みたいに、旅の道具としてその時々で必要なものをチョイスしている。僕はもっと、堀田さんみたいな目線で遊びの道具を見ればいんじゃないかなって。人それぞれいろんな旅のスタイルがあっていいと思うし。

「ルールの外」の旅

――堀田さんにとってスキーの旅の魅力はどういったものなんでしょうか?

写真提供:堀田貴之

堀田 日本の山って、無雪期だったらトレイルははっきりしているし、標識もあるし、よっぽど人が行かない場所でなければ、迷子になる可能性ってほとんどないでも冬になって雪が降ると、トレイルは雪の下になって、どこを歩いてもよくなる。それはルートがなくなるってことでもあって、そういう自由さかな。圧雪していない斜面に行ったら雪崩も起きるし、判断を誤ったら死んでしまうかもしれない。でも、遊園地で遊ぶのと、でかい波が来る海で遊ぶのと、どっちが面白いかな? 確かに危険と隣り合わせだし、そのことを忘れちゃいけない。でも、だからこそ面白いってことでもあるんだよ。

土屋 そういう危険性をコントロールすることもひっくるめて、すべて自分の責任において旅ができる面白さですよね。

――すごく共感するんですけど、それなら遊園地で遊びたいって人もいるし、実際そういう人が大多数だと思うんです。そういう人にその面白さをもう少し説明するとしたら?

土屋 それはやっぱり「自由」ってことだと思う。自分の中ではアウトドアの遊びって、そもそもドロップアウトするということなんです。もちろん山のルールを踏まえておくことはとても大事ですけど、「こういうルールだから」と判断するのではなくて、まず自分で判断するべきだと思うんです。

写真提供:野上健吾

堀田 僕はそれを「法律の外」って言っている。旅に出てるとき、僕は「法律の外に出てる」って思うんだ。たとえばね、幕営指定地でキャンプするなら、幕営指定地の決まりに従っていれば、それだけでいい。でも、そのルールの外に出てひとりでキャンプするなら、ここに雪崩は来ないかとか、熊の通り道ではないかとかに気を配る必要があるし、もちろん、そこでキャンプをすることで環境にダメージを与えないかも考えなくてはならない。だから敷かれたルールの中にいるときは何も考えなくてもいいけど、その外に出た時はよく考えなくてはならない。

土屋 律するものが自分以外いない場所で、いかに自分で自分を律するかって、自然を旅するときのいちばんの醍醐味だと思うんですよ。法律や他人のルールで律せられるんじゃなくて、自分で自分を律する。それができている状態が、いちばん自由で楽しい。それをより身近に感じられるようになるのが冬の遊びですよね。

冬ならではの旅の可能性

堀田 日本はスキーにはすごく恵まれているよね。この緯度でこの標高でこれだけの雪が降るっていうのは、普通はありえない。大陸から冷えた空気が流れてきて、それが日本海の蒸気で雲になって、それが日本で山に当たって雪をたくさん降らせるんだけど、世界的も恵まれている。しかもアラスカとかカナダだったら考えられないけれど、里から日帰りで行ける山も多いから、すごくスキーは滑りやすい国ではある。

土屋 バックカントリー・スキーっていうと、谷や急峻な場所を滑るとか、エクストリームな部分だけがフォーカスされるけど、日本に根付いてたスキーの山旅って最初はそうじゃなかったと思うんです。日本は冬季の閉鎖林道がたくさんあるじゃないですか? 斜面を行くから基本的に雪崩の時期は絶対アウトだけど、それがある程度落ち着いた春だったら、冬しか現れない幻のトレイルになる。昔の「スキー登山」なんて言われてた時代の資料って、ネットにはないかもしれないけど、古本屋とか図書館とかに行けばあるはずだから、その当時のルート集とか見たら日本の雪山を旅するヒントはすごーくいっぱいある。

写真提供:長谷川晋

堀田 僕が好きだったのは、民宿から隣町の民宿まで、山を越えてスキーで行く旅。地図を見て「こっちは急な斜面だから雪崩の可能性があるけど、この尾根なら行けるんじゃないか?」それで行く。それをどこまでも繋いでいく旅がすごく好きだった。

――それはすごく楽しそうですね。

土屋 そんなふうに考えていったら、やれることっていっぱいあるはずなんですよ。民宿から民宿まで山越えするとか、林道を行くなんて、夏だったら誰もやろうとは思わないことだけど、冬だったら楽しそうに思えるし、実際楽しい。そういうアイデアが、冬はより自由に考えられる。もちろん危険も伴うし、こういう旅の話をしてもピンと来ない人がいるのは仕方ない。でも、一回でもいいから雪上で自由に動くためのスキーを履いてみてもらえれば、その先にある世界の広がりが、100人にひとりかもしれないけれど感じてもらえると思うし、そこからドロップアウトの人生が始まるかもしれない(笑)。

写真提供:堀田貴之

堀田 日本はさっき言ったようにすごく恵まれたフィールドがあるから、いつも車にスキーひとつ積んでおけば、スノーシューよりも移動範囲広く動けるし、小さな雪の斜面があったら、最初はそれを登って滑るだけでもいいと思うんだ。もちろん、ゲレンデで遊ぶのもいいけれど、スキーは雪の上を移動するための道具なんだから、そういう意識を持ってこの道具を見れば、世界がちょっと広がるんじゃないかな?
最近、スキーから離れている人で、ゲレンデ・スキーが面白くなくて止めた人は、結構多いと思うんだ。たとえば子供のとき、ジェットコースターに乗りたくて遊園地に親にせがんで連れて行ってもらってたけど、大人になっても遊園地にジェットコースターに乗りに行く人は多くないでしょ? でも、あのジェットコースターを自分で運転できるなら、行くと思わないか? 「ゲレンデに人が来ない」ってスキー場の人は嘆くけど、大人の遊び場じゃないのに、大人が来るわけない。ようするにジェットコースターだから、そこに「自由」はないよね。

堀田貴之 Profile
文筆家。テレマークスキーやシーカヤックなどを使って国内外で旅を続けている。著書に「バックパッキングのすすめ」(地球丸)、「テレマークスキー漫遊奇譚~転がる石のように」(スキージャーナル社)など。最新刊は、『一人を楽しむソロ キャンプのすすめ』(技術評論社)。
http://hooky.club/

土屋智哉 Profile
アウトドア・ショップ「ハイカーズデポ」オーナー。シンプルな装備でスルーハイクを楽しむ「ウルトラライト・ハイキング」のムーブメントを日本に広めた第一人者。著書に「ウルトラライトハイキング」(山と渓谷社)がある。
http://hikersdepot.jp/

取材・文/三田正明 撮影/後藤秀二


■特集「スキー再発見」は全5回の連載企画です。次回は、スキー・ハイカーの野上建吾さんが雪山に赴く際のバックパックの中身をご紹介します。

1. 対談:堀田貴之 x 土屋智哉 スキーで旅する、自由な喜び
2. UL Ski Hiker=野上建吾さんのバックパックの中を見に行く
3. 対談:松尾憲二郎 x 芳沢淳 山で楽しむスキー、最新事情
4. 土屋智哉さん、バックカントリーで何を食べますか?
5. スキーを楽しむためのセルフケア とっておきのウォーミング・アップ&リカバリー術(2017.11.29 UP)

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