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対談:平井康翔×守谷雅之 トップスイマーと指導者、それぞれが語る「自然を泳ぐこと」【特集:自然の中を泳ぐ。オープンウォータースイミングを始めよう】

対談:平井康翔×守谷雅之 トップスイマーと指導者、それぞれが語る「自然を泳ぐこと」【特集:自然の中を泳ぐ。オープンウォータースイミングを始めよう】

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対談:平井康翔×守谷雅之 トップスイマーと指導者、それぞれが語る「自然を泳ぐこと」【特集:自然の中を泳ぐ。オープンウォータースイミングを始めよう】

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オープンウォータースイミング(OWS)特集の第4回は、リオ五輪8位入賞、現在は東京五輪で金メダル獲得を目指すオープンウォーター界のトップスイマーである平井康翔さんと、OWSの魅力を伝えるべく多彩な活動を続ける守谷雅之さんの対談。競技者と指導者、それぞれの視点から語っていただきます。

■特集「自然の中を泳ぐ。オープンウォータースイミングを始めよう」全5回
1. 守谷雅之さん、オープンウォータースイミングについて教えてください
2. 対談:浅井弘樹×本間素子 海峡を泳いで渡る理由
3. 宮杉理紗さんのスイミング再履修 水泳の基礎&海で泳ぐコツ
4. 対談:平井康翔×守谷雅之 トップスイマーと指導者、それぞれが語る「自然を泳ぐこと」
5. 自然の水に入るときに気をつけるべきこととは

――まずはお二人のOWSとの出会いと、このスポーツに魅せられた経緯を教えてください。

守谷 僕はもともと競泳をやっていて、ライフガードも学生時代にかじっていたんですね。で、その後スポーツクラブに就職したんですが、それがちょうどトライアスロンの第一次ブームの頃。トライアスロンを目指すお客さんが結構多くて、そのための水泳の指導をしてほしいと。それで、アマチュアのトライアスリートたちを海に連れていって海でのレッスンをやり始めたのがきっかけです。そのうち、同じ頃にオープンウォーターの大会が出てきたので、そっちにシフトしていくようになりました。

平井 僕はずっと競泳をやってきて、高校3年の時に400mの自由形でインターハイで優勝したんです。2008年、ちょうど北京オリンピックの年です。4年後のロンドンには絶対行きたいと思っていましたが、当時は400m自由形で、と思っていました。まだOWSのことは存在を知っていた程度だったんです。

守谷 それがなぜ、OWSの世界に?

平井 アスリートって自分の限界がわかるんですよ。為末大さんが言っていたことなんですが、彼は高校時代は陸上100mの選手だったけれど、どう努力してもボルトたちと9秒台で競ってオリンピックファイナルを走ることはできない。でもアスリートとして輝きたい、だから400mハードルに転向したと。僕も、400m自由形でオリンピックに行けたとしても、決勝やメダルに届くところまでは到達できないなって。強い競泳チームの中で埋もれて終わっちゃうだろうと思った。そんなことを考えていた時に、守谷さんもご存知の千葉県水泳連盟の鵜原さんという方に「オープンウォーターやってみたら?」と声をかけてもらったんです。

守谷 すぐに転向する決心はついた?

写真提供:平井康翔

平井 いや、それから2年くらいはプールでの競泳とOWSの両方をやってました。OWSでロンドンを目指そうと決めたのは2011年ぐらいですかね。きっかけには、大学2年の時のオーストラリアでの体験があります。一緒に泳いでた仲間に「どこの大学?」って聞かれて「明治」と答えても誰も知らない。じゃあ、東大や早慶なら知ってるのかと思ったら全部知らないんです。
僕はスポーツ推薦で大学に入ったこともあって、それまでのプライオリティのトップがインカレだったわけです。でも、それがいかに小さい世界かを思い知った。そこで勝っても、小さい村の中で評価されるだけ。でもオリンピックなら誰でも知ってる。そっちを目指した方が自分の人生を切り開いていけるんじゃないかって思って、OWSでやっていくことを決めましたね。

――お二人ともプールという環境で泳ぎ始めて、そこから自然の中、海や湖や川といったところで泳ぐようになったわけですが、具体的にはどんな違いが?

平井 競泳って日本で1番になっても派遣標準タイムを切らないと代表になれないんですよ。0.1秒でも足りないないとだめ。そういう、タイムで人生が決まるっていうのが嫌になった。OWSにはそれがない。そもそも世界記録というものがないんですよ。泳ぐ場所によって、水温も流れも、海か川かの環境も違ってくるから記録で比較できないんです。だから純粋に泳ぎで勝負する。スポーツって勝負の世界じゃないですか。そっちの方が僕にとってはストレスフリーなんです。

守谷 そう、勝負をかけた駆け引きっていうのがひとつの魅力ですよね。

平井 競輪とか、ツール・ド・フランスみたいな。OWSのポピュラーな距離って1500mと3.8kmあたりだと思うんですけど、プールでひたすら行ったり来たりしながら1500mを泳ぐのってつまらない。でも海ならできるんですよ。感覚が全然違う。

写真提供:守谷雅之

守谷 僕が教えている一般のスイマーたちも、普段はプールで泳いでても海に連れて行くと目の輝きが違う。自分自身もやってすごくワクワクしたんですけど、みんなそういう感覚を持つんだって思いました。ゴール後の雰囲気も全然違う。夏場のビーチの開放感もあるし、一緒に泳いだ仲間と達成感を分かち合うような雰囲気がある。泳ぐだけじゃなく、そういうこともオープンウォーターの魅力だと思いますね。

写真提供:平井康翔

平井 きれいな海で泳ぐのも気持ち良いですよね。僕がよかったと思うのはニューカレドニアの海とか、メキシコのカンクンの海。もうね、本当に水族館の中で泳いでるみたいな透明度。魚もたくさんいます。光に反応して飛んでくる「ダツ」っていう魚がいて、ミラー仕様のゴーグルに飛んでくるので怖いなとか思ってましたけど(笑)。

守谷 ちなみにサメに遭遇したことは?

平井 小さいサメが見えたことはありました。急いで海から上がりましたけどね。サメは本当に怖いけど、そういう予期せぬことが起きるワクワクっていうか、スリルに惹かれるところもある。人間はそういうものを求める生き物だから。

守谷 そう、初心者だったら足のつかない海に出ることだけでも恐怖だったりするんですけど、それを乗り越えていくことも魅力のひとつ。もちろん安全は大事なんですけど。

――プールのようにレーンで仕切られていないOWSのもう一つの特徴としては、ボディコンタクトがあるということですよね。時には「バトル」と呼ばれるような激しい接触もあるとか。

守谷 ブイを回る時とかは気をつけないと。競技者にとっては勝負所でもあるんだけど。

平井 そのへんは場数を踏んで慣れていくしかない。慌てず、カッとならずに身をかわすのもスキルのひとつですね。

写真提供:守谷雅之

守谷 平井さんは一度、競技中にそれで脳震とうみたいになったことがありましたよね。

平井 ありましたね。当時はまだ経験が浅かったので余裕がなくて、前のペースが落ちたことに気づかなかったために、前の人の足が当たってしまって気持ち悪くなっちゃった。その時は途中で上がりました。
ただ、そういうことに動じないで泳げないと、オリンピックなんかは無理。「あー、当たっちゃったな」くらいでいられる神経が必要です。いくら速く泳げる人でも、そういうことで乱れちゃうと練習してきたことが台無しですから。

守谷 僕も海のレッスンの時にみなさんに言うんですけど、いかに平常心でいられるかなんです。イライラしたり恐怖を感じると呼吸が乱れて苦しくなる。

――OWSってすごく泳げる人しかできないんじゃないか、というようなイメージも持たれがちですが、実際のところはどうですか?

守谷 第1回目のインタビューでも言いましたけど、プールでのクロールで300m~500mぐらい泳げるのが目安。あとは練習していけば1.5kmとかは泳げるようになるし、海も楽しめるようになると思う。

平井 実は僕も初めて海で泳いだ時は怖かったんです。

――ええっ!? トップスイマーの平井さんが?

平井 沖まで出るのって怖いですよ。でも一人で泳ぐわけじゃないし、だんだん慣れてきて……やっぱり経験ですね。だから、たくさん海で泳いで、たくさん海外の試合に出ることをプライオリティとして今まで僕はやってきました。

――OWSをやってよかったことって何ですか?

写真提供:平井康翔

平井 友達がめちゃくちゃ増えたことですね。メダルを争ってるわけだから敵なんだけど、でも仲間なんです。お互いに協力し合うという文化がOWSにはあるから。「1周目はお前の後ろを泳いでてもいい? 次の周回は俺が引っ張るからさ」という感じ。そういう仲間作りをしていくことで、点と点が線になっていって、やがて自分なりのユニオンみたいなものが世界で形成されていく。解放されたところで泳ぐからか、みんなオープンマインドなんですよ。守谷さんが教えている人たちも、そうじゃないですか?

守谷 そう、海に行って泳いでみないとわからない楽しみっていっぱいあるんですよ。それを広めるっていうのが自分のモチベーション。プールで泳いでる人をいかに海に連れていくかが僕の役目だと思ってる。そのための環境を提供しなくてはいけない。プールで海のための練習をする、それを今度は海に連れて行ってやってみる、記録会的なレースを作る、そしてメインの目標となるレースをつくる。そういう一連の流れが今できつつあるんです。
それプラス、競技的なことだけじゃなくて、イルカと泳ぐとか、南の島を一周みんなでのんびり泳ぐとか、海峡をリレーでつないで泳ぐとか、とにかく海を楽しむ場を広げていきたいって思ってるんです。

――最後に、それぞれ今後の目標を教えてください。

写真提供:平井康翔

平井 僕は東京オリンピックももちろんなんですけど、まずは今年8月に開催される4年に1度のパンパシフィック選手権。今年は日本で開催されるんです。OWSは館山が会場になります。今の自分の調子と実力だったらメダルに絡める位置にいるので、そこでメダルを取って名乗りを上げておきたいですね。
あと、僕は高知県須崎市のふるさと大使をやってるんですけど、そこはOWSで町おこしをしようとしていて、去年そこに僕の仲間のリオの金メダリストやコーチたちを呼んだんですよ。そうしたら、呼んだ高知県側にも呼ばれたスイマー側にもめちゃくちゃ喜ばれたんです。子供達もオリンピックメダリストと触れ合えて、すごくいい体験をした。こういうことを将来はもっとでっかい規模でやっていきたいんです。

守谷 今うちはプールで朝練をやっていますけど、究極の形としては、仕事前に海で朝練をやれるような文化をつくりたいですよね。地元の人たちのコミュニティーみたいなものが、日本の中にどんどんできてくると変わってくるはず。ビーチごとにOWSのコミュニティーができて、文化が生まれるようなイメージ。水泳のマスターズの人たちがもっともっとOWSを楽しむような流れを作っていきたいですね。

平井 自然を泳ぐと、パーソナルなことに思いが向かうんですよ。そうしたらもっと自分の人生のこととか、家族のこととか友達のこととかをいろいろ考えるようになる。それでポジティブな気持ちになって、また陸に戻ってくればいいんじゃないですか。それが未来の自分のハッピーにつながればいい。あ、最後に一つ、やりたいこと言っていいですか?

――ぜひ!

平井 東京オリンピックが終わったあとにやりたいのは、箱根・芦ノ湖でOWSのレースを作ること。

守谷 いいね! 鳥居の下からスタートしたりね。

平井 そうそう!ワンウェイでもいいし、1周コースもできる。で、箱根の偉い人たちを口説くためにもね、東京オリンピックで結果を出したいんですよ。

平井康翔 Profile
所属:SBIホールディングス株式会社/ワタナベエンターテイメント
1990年生まれ、日本人初のOWS競技でのオリンピアン。2009年からOWSに取り組み、2012年ロンドン五輪では初出場で15位。2013年に明治大学政治経済学部を卒業後、オーストラリアに拠点を移し、コーチをつけずに世界中を転戦するという日本人スイマーとしては極めて異例な競技スタイルを過ごす。2016年にリオ・デジャネイロ五輪に出場し、日本人初の8位入賞を果たした。現在は東京に拠点を移し、競技人生の集大成として掲げる2020年東京五輪での金メダル獲得を目指している。
またファッション、ストリートカルチャー、格闘技への造詣も深く、国内外で他業種との交流も深い。現在、千葉県館山市ふるさと大使、高知県須崎市ふるさと大使を務め、地域活性化活動にも精力的に取り組んでいる。
http://yasunarihirai.jp
Twitter:@Yasunari_Hirai
Instagram:@Yasunari_Hirai

守谷雅之 Profile
株式会社オーシャンナビ代表、日本水泳連盟OWS委員。国内最大のOWSレースである〈湘南OWS〉などでレースディレクターを担当。さまざまな形で、OWSを普及する活動を展開している。2011年、35kmを11時間55分かけて津軽海峡単独横断泳に成功した。
https://ocean-navi.com/

取材・文/東海林美佳、撮影/後藤秀二


■特集「自然の中を泳ぐ。オープンウォータースイミングを始めよう」は全5回の連載企画です。次回は、全日本OWSチャンピオンの宮杉理紗さんが、自然の水に入るにあたって必要な健康管理について語ります。

1. 守谷雅之さん、オープンウォータースイミングについて教えてください
2. 対談:浅井弘樹×本間素子 海峡を泳いで渡る理由
3. 宮杉理紗さんのスイミング再履修 水泳の基礎&海で泳ぐコツ
4. 対談:平井康翔×守谷雅之 トップスイマーと指導者、それぞれが語る「自然を泳ぐこと」
5. 自然の水に入るときに気をつけるべきこととは

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