「幸せホルモン」であるセロトニンが欠乏すると、ネガティブになったり、不眠症に陥ったり、さまざまなうつ症状が起きてきます。現代人はパソコンの浸透によって、知らないうちにセロトニンが分泌されにくい生活に陥りがちだとか。
今回は、”セロトニン神経を活性化させて「幸せ度」を高める方法”をテーマに、前回と同様にセロトニン研究の第一人者、東邦大学医学部名誉教授で医師の有田秀穂先生に、”セロトニンを増やす方法“を伺います。
有田秀穂
東邦大学医学部名誉教授
1948年東京生まれ。東京大学医学部卒業後、東海大学病院で臨床に、筑波大学基礎医学系で脳神経系の基礎研究に従事、その間、米国ニューヨーク州立大学に留学。東邦大学医学部統合生理学で坐禅とセロトニン神経・前頭前野について研究、2013年に退職、名誉教授となる。各界から注目を集める「セロトニン研究」の第一人者。
──セロトニン神経を活性化させるためには、どのようなことをすればいいのでしょう?
まずは、太陽の光を浴びることです。それによって網膜から刺激が入り、脳に伝わります。朝起きたら、暗い部屋でダラダラせず、カーテンを開けて、太陽の光をしっかり浴びてください。
──運動不足も、セロトニン欠乏の原因の一つとのこと。どのような運動をするのが、セロトニンの分泌には効果的なのですか?
単純なリズム運動が、セロトニン神経を活性化させる最も重要な因子です。特にウォーキングがおすすめです。
他には、ジョギング、スクワット、自転車をこぐのもいいでしょう。また、ちょっと意外なところでは、ゆっくりと簡単な動きを繰り返すフラダンスもいいですね。
──フラダンスも、いいんですね。
はい。
──ダンスや球技のようなスポーツではダメですか?
ダンスのような有酸素運動は、肥満や糖尿病予防などには効果があります。
ですが、セロトニン神経の活性化には、単純な動きを繰り返すことが必要なのです。ですから、激しい運動をしても、難しい動きをしても、セロトニン神経の活性化には効果がないのです。
──リズム運動は、どれくらいの時間、行えばいいのでしょう?
最低5分でいいんです。そして、最高でも30分以内でやめること。疲労しない程度で終えることがポイントです。ただし、このとき大切なのは、しっかりと集中すること。セロトニン神経の活性化には、集中が不可欠なのです。
ですから、例えばウォーキングをするなら、人通りの少ない時間帯や場所を選んでください。早朝の公園や、自然の多い場所などが、気が散りにくくていいでしょう。
──毎朝30分歩けば、セロトニン活性に必要な「太陽を浴びる」と「リズム運動」が同時にできますね。
そうです。これを3カ月続ければ、成果が出てきますよ。何となく気分が落ち込みぎみだったり、寝られないといった症状に悩まされている人は、ぜひ始めてみてください。副作用もなく、安上がりの治療法ですから(笑)。
──他に、おすすめの方法はありますか?
呼吸のリズム運動も、とても効果があります。
──呼吸のリズム運動とは?私たちが通常、行っている呼吸とは違うのですか?
生きるために自動的に行われている呼吸は、「吸う」ということがメインなんですね。まず吸って、それをやめると、自然と吐くという行為が行われる。この呼吸法では、主に横隔膜が使われます。
一方で、セロトニン神経を活性化させる呼吸は、「吐く」ことがメインになります。つまり、生きるための呼吸法とは逆で、最初に息を吐くのです。それをやめると、自然に吸うという行為が行われるんです。
この呼吸法は、別名「丹田(たんでん)呼吸法」といって、横隔膜ではなく、下腹部の丹田という部位が使われます。
このリズム呼吸法を、毎日5分以上30分以内で行うと、セロトニン神経は活性化されます。座禅やヨガ、太極拳などは、この呼吸法を取り入れているので、おすすめですよ。
──セロトニン神経の活性化には、リズム運動がいいということですね。他にも、日常で取り入れられるリズム運動がありますか?
咀嚼(そしゃく)のリズム運動といって、かむという行為も非常にいいですね。よくスポーツ選手が試合中に、ガムをかんでいますよね。あれは、かむというリズム運動によってセロトニンの分泌が盛んになり、ネガティブな気持ちを解消するという目的もあるのです。
他には、カラオケも、息を吐くという腹筋のリズム運動になるので、いいですね。もちろん、人が歌うのを聞いているだけではダメ。おすすめは30分間の一人カラオケですね(笑)。
──セロトニン分泌を促す食べ物はありますか?
セロトニンは、トリプトファンという必須アミノ酸を取り込んで、合成されます。このトリプトファンを多く含んでいるのが、大豆製品。だから、納豆やみそ汁といった日本食は、セロトニン分泌にとてもいいです。
また、乳製品もトリプトファンを多く含んでいるので、洋食なら乳製品を用いたメニューを選ぶといいでしょう。
その他にも、炭水化物やビタミンB6を含む食材が、セロトニンの分泌を促します。
このトリプトファン、炭水化物、ビタミンB6をバランスよく摂ることが大事ですが、バナナにはこれらが全部入っています。だから、バナナヨーグルトなどは、大変におすすめですね。
──では、バナナをたくさん食べるといいのでしょうか!?
いえいえ、たくさん摂取すれば、セロトニン欠乏が治るというわけではありません。それより太陽を浴びることと、リズム運動を行うことのほうが大事です。
写真:ストレスとセロトニン研究の第一人者、有田秀穂先生
現代人は、普通に生活していると、この「太陽を浴びること」「リズム運動」の2つともが行われなくなりがち。その結果、知らず知らずのうちにセロトニンが欠乏して、さまざまな不調に悩まされるようになっています。
だからこそ、私たちは意識して、セロトニン神経を活性化させる生活を送ることが必須なのです。
取材、文・山本奈緒子