和牛の素晴らしさを世界に発信するサイト「和牛ダイレクトドットコム」を立ち上げ、世界中を飛び回る起業家、浜田寿人さんの連載の第3回。
今回は、グローバルな活躍を続ける浜田さんの、メンタル面を保つための方法を伺います。
——日本でもグローバルに活躍する人が増えてきましたが、世界を股にかけて働くためには、どんなメンタルが必要ですか?
いつもボクは思うんですけど、やっぱりビジネスをしていると、うまくいかないこともあるじゃないですか。むしろ、うまくいかないことのほうが圧倒的に多い。
それでも、常に自分の状態をポジティブなゾーンに置いておくことが重要だと思うんです。
そのためには、忙しく働く日々において、見失いがちなモノを、どうやって自分のなかで取り戻していくか。
特に、東京のような都会での生活というのは、見失ってしまうモノが多いと思うんですよ。それに気づくことが大事ですよね。季節ごとに色づく木々もそうだし、小さな花ひとつでもそうだし。
それを、ふと取り戻させてくれる時間が必要だと思います。
人それぞれですけど、ボクにとって、それは毎日の自分なりのワークアウトだったり、仕事にもなっている食生活だったり、良質な睡眠だったり、いつもより長めにできた瞑想、そして気持ちを落ち着かせるクラシック音楽や読書だったり。
不思議だけど、仕事のリズムを取り戻すということは、仕事じゃない時間を上質化させていく、その努力の延長線上にあるんじゃないかなと、最近思います。年をとってきたんでしょうね(笑)。
——海外での生活経験が豊富な浜田さんが、日本と海外を比べて思うことは?
ボクは80か国以上に行ったことがあります。それでも世界の国の半数にも満たない40%程度。まだまだだなって思いますけどね(笑)。
その経験から感じるのは、日本ほど便利な国は他にないということ。
そういう意味では日本人というのは、便利であることに不感症になっているんじゃないかな。海外では、日常生活の不便さは当たり前にあるものです。
例えばインドだと、電圧が変わって電気系統が壊れちゃうといったことは日常茶飯事。それって、日本じゃあり得ないじゃないですか(笑)。
ニューヨークで雨が降ったら、まず傘が買えないし、タクシーもつかまらない、とか。
キューバなんて、バスは4時間くらい待って、ようやく来たりしますからね(笑)。
日本人ならイライラして大変なことになりますけど、見方を変えてみれば、その4時間待っている間に、いろんな出来事があったりして、けっこう楽しかったですね。
日本人は、当たり前のことが当たり前に進まないと、ものすごくフラストレーションを感じてしまう。
この間も新幹線のなかで、怒鳴り合いの喧嘩をしている乗客がいてね。そのフラストレーション自体がもったいないし、そんなに完璧な定規はないのになって思います。
ボクはもっと自然体でいたいし、ロスがあったとしても、「ま、こんなもんだよね」って思える人間でいたい。
こういう感覚っていうのは、特に都会で暮らす日本人に失われがちなものだと思うんです。
——確かに日本人は、海外の不便さに慣れるのに苦労しますよね。
日本では、「グローバル化」といわれて久しいですが、本当のグローバル化とは、自分たちが思っている枠組みをいったん取っ払ってから、そのなかで“自由演技”をすることだと、ボクは考えているんです。
自由演技をするには、個性がすべて。日本人だって個性がない人なんていません。
ところが日本では、みんな人それぞれ個性があるのに、なぜか没個性になってしまいやすい。
それでも、最近は面白い発想をするぶっ飛んでいる若い人たちが出てきているのが、とても嬉しいです。
そういう人たちに接すると、自分ももっと頑張ろうと思うんですよ。
ボクが先輩にそうされてきたのと同じように、ボクもその人をあらゆる努力で応援したいと思っています。
ボクは常に世界と勝負したい。日本のマーケットだけを相手にすることには興味がないです。
日本が生き残っていくためには、常に世界と繋がっていないとね。
そのなかで日本が勝負できるモノ。それがボクにとっては「和牛」だったということです。
——世界に和牛を売っていくためには苦労も多いのでは?
もちろん、いろんな壁にぶち当たりますけど、いつも自分自身が楽しんでいますから、苦労と感じることはないですね。
ボクが目指しているのは、日本ローカルの素晴らしいプロダクトを、グローバルマーケットで売っていくこと。
大量消費、大量生産でロープライスというのは、他の国に任せておけばいい。日本が目指すべきものではないんです。
これだけの手間ひま、情熱、ロマンを注いでいるからこそ、それだけの価値があるんだっていう「ホンモノ」を、世界に認めてもらうこと。
それには、その裏側にあるストーリーをしっかりと発信していかなければならない。
モノだけ見せてもダメです。
そしてそれをグローバルに編集してあげること。簡単だけど、なかなかこれをわかるプレイヤーがいない。
それこそが「ものづくり」に長けた日本が次に目指すべきことなんだと、グローバルな編集にこそ未来はあると信じています。
取材・文:編集部ライター J.O
カメラマン:©Michael Holst
写真提供:浜田寿人
【ラーメンと血圧計のオイシイ関係 3】肉と脂と炭水化物がテンコ盛りの自作ラーメン「オレ二郎」で究極の自己満足を得る! (後編)