和牛の素晴らしさを世界に発信するサイト「和牛ダイレクト」を立ち上げ、世界中を飛び回る浜田寿人さんの連載の第2回。
今回は、忙しい日々を送るなかでの健康維持の秘訣や、運動をすることによる身体や生活のリズムのつくり方について、お聞きしました。
——浜田さんは、ビジネスで日本のみならず、世界中を飛び回られていると思いますが、忙しいスケジュールのなか、日々の生活リズムはどう作っていらっしゃるんですか?
今は東京がベースになっていますが、月で言えば、半分くらいは国内の地方の育成家のもとを訪ねたり、これはと思うシェフのレストランを回ったりしています。
残り半分はほぼ海外、といった感じですね。
この話をすると、「自宅に戻る日が少ない生活って大変じゃないですか?」と聞かれることも多いのですが、ボクはずっとそういう生活をしてきているので、それがもう、ボクにとっての生活のリズムになっているという感じですね(笑)。
オフィスへも定時に行く仕事ではないので、毎朝6時前ぐらいに目覚めて、瞑想して、スムージーを作って、コーヒーを挽いて、ジョギングして、リズムを整えてから世界と話し始める、そういう毎朝です。
——忙しい日々のなかで、健康管理であるとか、生活のリズムを保つのに気を付けていることなどありますか?
数年前に、ビジネスでシンガポールに約3年間住んでいたことがあったんですね。
その時、ルームシェアすることになったのが、シンガポール政府の経済企画庁に勤めていた、のちに親友となるエドウィンです。
たまたま同じ歳であったこともあり、意気投合。本当に仲のよい親友になりました。
ルームシェアを始めてちょっとしてから、彼がステージ4の末期ガンであり、余命半年と言われながら、3年間生きているという過酷な事実を伝えられました。
一瞬、頭の中が空っぽになりました。
「お前は死なないよ、大丈夫」と伝え続けたけれど、わずか半年後に彼は旅立つことになります……。
死の直前に迫った人間はどういうことを考えるのか、彼は質問形式でボクに毎日教えてくれました。
それは死期を悟った人間のみが知る大切なことをボクに特別授業してくれている、今思うと、そういう時間でしたね。
「自分のことではなく、まず人のことを考えるようになる」とよく言っていました。
いろんなことをボクに教えてくれたのですが、一番強く印象に残っているのは、
「どんなに運とか才能があって努力したとしても、健康を害したら何もできなくなる」
という言葉でした。
「健康だけは自分でしかチェックできないからね」と、ボクによくアドバイスしてくれて、それから自分の身体は自分でしっかり守るということを知りました。
彼は自分の身体に何が起きているのか、毎日ウェブや様々な文献で調べていました。そういう努力こそが未病段階で必要だと考えています。
もちろん、ボクも偉そうなことを言えるほど、生活が毎日パーフェクトにできているのかと言えば、そうではありませんが。ただ、意識レベルは普通の人よりも高いと思います。
——友人の急逝を身近で経験し、本当の意味での健康の大切さに気付いたと。
ボクは今37歳で、30代としては後半戦に入ってきているわけですが、これくらいの年齢になってくると、自分の身体のバランスが今どうなっているのかが、不思議なことに何となくわかるようになってきます。
例えば、何となく免疫力が下がってきているのかなとか、タンパク質や脂質が足りない、野菜が足りていないなとか……。
“何となく”の身体の信号がわかるようになってきました。
でも、そうなるためには、ワークアウトと食生活、そして睡眠の3軸がとても重要になってくる。この3軸がうまく機能してくると、身体が欲していることが自然とわかるようになってきます。
こういった食に関わるビジネスをしていると、とにかくよく食べますね。
冗談ではなく、たぶん、新しい土地に行った時は、普通の人の3倍くらいは余裕で食べているんじゃないですかね。
だからこそ、ワークアウトと普段の食のケアやコントロールがものすごく重要になってきます。
和牛のビジネスをやっています、太っています……そんな時代じゃないです。若手のシェフで太っているトップシェフはいません。
フレンチでも今は、スラッとしてモデルのような体型をしているトップシェフが増えている。
美味しい=太ってもいい、の図式がグローバル・スタンダードではなくなったのです。
普通の人より太らない体質だとは思いますが、それでも運動しなければ、もちろん太る。和牛を扱う仕事をしていて太っていたら、あまりにも普通じゃないですか(笑)。
常に新しいモノを追い求めたいというボクの美学に反するので、それだけは避けたい(笑)。
ですから、これまでにいろんなスポーツをやってきましたね。
特にトライアスロンとの出合いはボクにとって、とても大きかった。
北京オリンピック日本代表の宮澤崇史氏と
——トライアスロンって、気軽に始めるにはハードルが高そうな気もしますが……。
確かに真剣に打ち込むには大変なスポーツだとは思いますが、ビジネスがメインの私にとって、トライアスロンはあくまでも趣味。
趣味で楽しむという意味では、これ以上に楽しいスポーツってないんじゃないかな。
始めてからもう4年になりますが、トライアスロンは個人競技ではあるけれど、ボクにとってはチームスポーツでもあるんです。
例えば、朝のトレーニングは、会社に行く前に仲間と走ります。すると、ひとりでやるより楽しいし、長く走れたりする。
堀江貴文氏と一緒に主宰しているトライアスロンチーム「トライセラトップス」
しかも、ランニングとスイミングとロードバイク、この3種類の運動をするから、非常に身体のバランスが良くなる。
ボクの場合は、あと、これにキックボクシングが加わりますけどね。
小比類巻貴之率いる、小比類巻道場(恵比寿)にて
——世界中を飛び回っていると、トレーニングを続けるのは難しそうですが……。
トライアスロンの種目のなかでも、ランニングはシューズさえ持っていければ、どこでも走れる。
もちろん、本当に忙しい時はランニングさえできないこともありますが、できるだけ走るようにしています。
特に、国内外問わず、初めて訪れた街では必ず走りますね。
実は、走る速度っていうのは、初めての街を見て回るのにちょうどいい速度なんですよ。走りながら、「あ、この店いいかも!?」というように、新しい発見もできますから。
——身体を動かすというのは、やはりリフレッシュ効果があるのでしょうか?
そうですね。忙しいなかでも時間を作って運動することは重要です。
やはり、常に新しいことを考えるためには、頭を働かせていないといけない。
でも、走っていると、頭を解放させてあげるというか、“頭のなかを無にする”ことができる。
ボクは走っている時は、あまり考えないようにしています。
アクティブな瞑想状態に近いですね。
体調にもよりますが、走り始めてから40分ぐらいでそのモードに入ります。瞑想時のマインドフルな状態ですね。
この状態を一度経験してから仕事に入ると、同じ仕事でもものすごく簡単に処理できたりするから不思議です。
料理もそうですが、何事もプリペアレーションが重要なんだなと思います。
昔は仕事のことを考えながら走ったりもしていましたけど、今は何も考えないで、五感で自然と“感じながら”走っているといった感覚かな。
目の前に飛び込んでくる木々を眺めて「葉っぱの緑が濃くなってきたなあ」とか、「こんなところにこんな花が咲いて、キレイだなあ」とか。そういう季節の移ろいにも心が向くようになりましたね。
世界中でそういう感覚を味わえるというのは幸せなことです。
——連載3回目の次回は、グローバルな活躍を続ける浜田さんの、メンタル面を保つため方法についてお聞きします。
取材・文:編集部ライター J.O
カメラマン:©Michael Holst
写真提供:浜田寿人