あなたは今まで、こんな疑問を感じたことはありませんか?「虫歯はなぜ黒いの?」子供のような疑問ですが、実はその素朴な疑問は、とっても大事なことに関係しているのです。虫歯が黒くなるメカニズムを知って、ぜひ毎日の虫歯予防に役立てましょう。
虫歯というと、よく黒い「ばい菌」のようなキャラクターが登場し、白い歯を汚染するイメージが描かれることがありますよね。
でも、実際、虫歯というのはクリーム色から黄色がかった色などをしていることが多いのです。また、場合によっては、黒ずんだ虫歯もあります。この色の変化が起きる理由としては、進行度の度合によって色の変化のスピードが変わるからのようです。
では、なぜ虫歯になると歯の色が黒くなるのでしょうか?
黒いのは、何かの色素が沈着したものと考えられます。その色素沈着の理由を知るには、虫歯のできる過程を知る必要があります。
虫歯はどのようにできるのでしょうか。まずミュータンス菌などの虫歯菌が歯に付着して歯垢(プラーク)という細菌のかたまりを作り出します。そして、食事などで口の中に入ってきた糖分を使って、強力な酸をつくり出します。この酸が、歯を溶かすことで歯に穴が空き、虫歯となるのです。
歯の成分は、カルシウムやリンなどのミネラルですが、酸がこれらの成分を溶かすことを、「脱灰(だっかい)」と呼びます。
虫歯が黒くなる理由の一つとして、歯が溶け出して「脱灰」を起こした後に、何らかの黒いものが沈着したということが考えられます。
脱灰が起きた後に、唾液などから出るカルシウムやリンなどのミネラルが歯に付着して歯が再生することを「再石灰化(さいせっかいか)」と呼びます。虫歯が黒いのは、この再石灰化の際に何らかの黒い色素を巻き込んだことが理由と考えられるのです。
しかし、進行した虫歯では、もう再石灰化は起きなくなります。
では、なぜ進行した虫歯は黒いのでしょうか? その一つの理由に、神経がすでに死に絶えていて、使い物になっておらず、歯に栄養が届かなくなっていることが考えられます。
これまで見てきたように、虫歯は必ずしも黒いとは限りません。虫歯の進行スピードが速ければ、黒くなる間もなく、むしろ黄色っぽくなります。つまり、虫歯かどうかは、色では判断がつかないのです。
「虫歯は黒いもの」と思い込んでいると、虫歯になっているのにもかかわらず、気づかずに放置してしまう恐れがあります。
たとえ再石灰化の結果、歯が黒くなっても、治療しなければ、虫歯菌はさらに歯の内部で侵食し続け、やがて象牙質は崩れ去り、中の歯髄という神経にまで到達してしまう可能性もあります。そうなると、神経が炎症することで、激しい痛みが出てくるなど、いいことは一つもありません。
大切なのは、毎日、虫歯菌予防のために歯磨きを欠かさないことと、少しでも歯がしみたり、痛みを感じたりしたら、歯科を受診しましょう。
ところで、日頃の虫歯予防策としては、歯磨きが欠かせませんが、他にも虫歯予防に役立つお話をしましょう。
意外と知られていないのが、唾液にはもともと虫歯を予防するすごい力が備わっていること。唾液はただ食べ物の消化を助けるだけだと思っていませんか?先ほどもご紹介した通り、唾液には溶けかかった歯を再生する「再石灰化」を促す働きがあるほか、酸性に傾いた口の中を中和するための「重炭酸」が含まれています。また、殺菌作用まであるのです。
よく風邪薬などに含まれている「リゾチーム」をはじめとした消毒する作用のある成分が、唾液には含まれています。口の中を誤って噛んでしまって、傷がついても、いつの間にか治っていたということが多いのは、この唾液の殺菌・消毒作用があるからといわれています。
唾液が出るのは、耳の下から舌の根元にかけての唾液腺。一日に1.5リットルもの唾液が出るといわれています。唾液は、よく噛んで食べるとより多く分泌されるため、消化はもちろん、虫歯予防のためにたくさん唾液を出すためにも、よく噛んで食べるといいでしょう。
虫歯菌による「脱灰」が進んでも、唾液の力で「再石灰化」が行われると説明しました。しかし、頻繁に甘いものが口の中に入ってきたり、長時間甘いものが口の中にあったりすると、脱灰と再石灰化のバランスが崩れてしまい、虫歯になってしまいます。
そうならないためには、歯磨きを毎食後と寝る前に徹底するのはもちろん、再石灰化を促すための何かの施策を行いたいものです。そこで今、世界的に広く取り入れられているのが、フッ素、つまりフッ素の化合物であるフッ化物を歯に塗布する方法です。
よく、フッ化物配合歯磨き粉などテレビCMなどで目にしますが、その「フッ化物」は、歯の脱灰が進行するのを抑制し、歯の石灰化を促す働きがあるのです。
また、他にもフッ化物は虫歯予防に効果のある働きがあります。それは、フッ化物が歯垢の中に取り込まれた際に、歯垢の中にいる虫歯菌などが、酸を作るのを抑制する効果です。
この虫歯予防に役立つフッ化物は、歯科医院で塗布してくれるところが多いので、歯のクリーニングや治療の際にはぜひ尋ねてみましょう。
電動歯ブラシは、虫歯予防にはどんな風に役立つのでしょうか。音波の力で振動させる電動歯ブラシなどは、高速振動で、より歯垢除去に役立ちます。電動歯ブラシの効果は、歯面に付着している歯垢を除去するだけでなく、歯面に対して、歯垢が付着する力が弱まることにもあります。
ただし、電動歯ブラシは、長時間利用では歯面や歯肉が傷つくこともあるといわれているため、使用時間は3分以内がいいとされています。その研磨力の高さから、歯ブラシよりも除去力は高いものの、やはりデンタルフロスでの歯と歯の間の歯垢除去は実践したいものです。
ところで、先ほど、虫歯菌などが含まれる歯垢は、糖分を取り込み、強い酸を出して歯を溶かしにかかると説明しました。実はそれだけでなく、その細菌たちは、歯の表面に膜を貼ります。それを「バイオフィルム」と呼びます。時間の経過と共にその膜がどんどん分厚くなり、虫歯菌たちはその膜に守られながら内部で増殖を続けていきます。
幸い、バイオフィルムは歯ブラシで除去できます。そして完全に取り去られると、次にバイオフィルムを形成するまでに24時間は時間がかかるといわれています。
早めにバイオフィルムは歯磨きで取り除いておきたいものです。歯石となって硬くなり、歯ブラシでは除去できなくなるからです。
虫歯かどうかは、黒いかどうかは判断基準にはなりません。ぜひ毎日の歯ブラシを習慣づけて、徹底して虫歯予防に取り組んでいきましょう!
文:リズム編集部
監修:高島美祐 (神谷町デンタルクリニック)
高島 美祐(たかしま・みゆう)
早く確実に治したい方や、何度も再発してなかなか治らなかった方のために、マイクロスコープとCADを使った短期集中治療に特化した歯科医院「神谷町デンタルクリニック」を東京都港区虎ノ門にて開院。歯の病気が早産や生活習慣病、認知症につながることや、かみ合わせの不良により顔のバランスが乱れてしまうことなどを啓蒙している。超高齢化社会において、自分の歯をできるだけ長く残すための治療を実践しており、国内外からの来院がある。
関連記事:
歯周病の基礎知識!歯周ポケットと歯石の関係は?【歯科医監修】
関連記事:
電動歯ブラシに向いた歯磨き粉のおすすめをチェック!【歯科医監修】
関連記事:
歯石は糸ようじで取れない!歯垢の取り方は?【歯科医監修】
関連特集:
Rhythm内の「オーラルケア」に関する、記事はこちらから