「代々木公園に雪を降らせる」骨髄バンクxスノーボードイベントSNOW BANKの主催者であり、プロスノーボーダーである荒井さんは、28歳のとき、「慢性活動性EBウイルス感染症」と診断されます。仲間に助けられながら自分で道を切り開き、ようやく骨髄移植をする準備が整った荒井さんですが、さらなる困難が待ち受けていました。
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そのさらなる問題っていうのが、型の不一致でした。
骨髄移植というのは、造血管細胞の移植のことなんですけど、HLA型という4種類の型があるんですね。
わかりやすく言うと、血液型みたいなものです。その型が一致しないと移植できない。両親の一致率は赤の他人と変わらないんですが、兄弟だと確率が高くて1/4といわれています。ぼくは兄が1人いて期待していたのですが、ダメでした。それで、もう死ぬのかなと思っていたときに、骨髄バンクを知って、すごいホッとしたんです。まだ諦めなくていい、そう思えました。
早速、登録したら、型が一致する人が14人いました。でも、誰もドナー提供できなかった。病気になっていたり、住所が変わって連絡がとれなかったり、理由はいろいろあるんですけど。毎朝パソコンを開いて、骨髄バンクのデータベースにアクセスして、14人が15人に増えていないかチェックしていました。
でも、待っている間も、病気を抑制するために抗がん剤の投与をしているんです。
髪の毛は抜けますし、顔はパンパンにむくんで、熱が40度くらい出るときもありました。心臓に水もたまりました。
それで半年くらいたって、ドナーが現れたんですけど、型が完全には一致しなかったんです。
でも先生が、「体力のあるうちに移植しよう。その方がチャンスがある」と言ってくれたんです。抗がん剤もかなりきつかったんですが、実はここからが一番しんどかった(笑)。
移植するには、まず自分の造血管細胞を壊さないといけないんです。新しい造血管細胞を移植する前に、古い血を造れないようにする必要がある。そのために、致死量の抗がん剤を投与して、1万ミリシーベルトの放射線を全身照射するんです。そうすると、すごいしんどいんです。どうしんどいかって言うと、体が内側からバチバチ焼けてくるんです。
どんどん体が熱くなっていって、気がついたらぶわーって揺れ出すんです。ベッドに体を縛りつけられているのに。
―あまり想像したくないですね……
あと、話は少し前後するんですけど、いったん造血管細胞を壊すと、免疫力がゼロになるから、無菌状態にしないといけないんです。だから虫歯とかもぜんぶ抜くんですよ。奥歯も4本抜きました。
―アスリートとして奥歯抜くことに抵抗感はなかったのですか?
もちろん、ありました。踏ん張れなくなりますから。先生と何度も話し合いました。先生のゴールは、患者を病院から生きて出すことなんです。
でも、ぼくは違う。プロスノーボーダーとして復帰して活躍するのが、ぼくのゴール。生きて出られても、スノーボードができなかったら死んでるのと一緒。
だから、歯は残せるだけ残してくださいってお願いしました。先生のぼくに対する意識も変わって、患者さんにとって「生きる」とは何なのか、考えるきっかけになったと、後で感謝されました。
手術して2週間くらいすると、放射線って抜けていくんです。だいぶ楽になってきて、余裕だと思っていたら甘かったです(笑)。
さっき話したみたいに、手術の前は免疫力ゼロの状態です。
手術すると、移植された造血管細胞から血液が造られるから、免疫力が発生するのですが、これはまだ他人のものなんですね。だからぼくの体を異物だと判断して、攻撃してくる。この状態を急性GVHDといいます。
一気に熱が42度くらいまで上がって。全身が痙攣して、心拍数も230を超える。ずっと歯ぎしりしているから、歯もボロボロ。3日に1回輸血するのですが、それじゃ血小板が足りなくて軽い脳梗塞になるので、ろれつも回らない。記憶も飛ぶ。1ヶ月、そういう状態で点滴を打っていました。体重も66kgから16kgくらい落ちました。
その時に本当に、人って食い物でできてるんだな、食わなきゃ骨と皮だなって気づいたんです。
それからひと月くらいして、血液が生着し始めるんですね。新しい血液が体になじむことを生着っていうんです。もともとぼくは血液型がA型でした。
でも、移植した造血管細胞がO型だったので、この頃にようやく血液が全部入れ替わって、O型になりました。
これでようやく、ぼくの目指すゴール=移植したら1年以内にプロスノーボーダーとして誌面に復帰する、のスタートラインに立てたんです。
想像を絶するような長い苦痛と闘い続けてこられたのは、プロスノーボーダーとして復帰するという強い思いがあったから。インタビュー最終回となる次回は、荒井さんの復帰と、その後の活動代々木公園に雪が降る-SNOWBANK2015について、お話を伺います。
取材・文:福田浩久
写真提供:荒井daze善正・リズム編集部