マインドフルネス瞑想のエキスパートでRhythmアンバサダーでもある長谷川洋介さん。
前回は、ビジネスパーソンに役立つマインドフルネス瞑想に関する連載『ビジネスパーソンのためのマインドフルネス瞑想』を4回にわたって紹介してきました。今回は、老若男女を問わず、すべての人がマインドフルネスを普段の生活に取り入れながら生活に根ざしたものにすることにより、生活リズムを整えていくために役立つ方法を5回にわたって紹介します。
今回は、マインドフルネス・イーティング(食べる瞑想)を実践することで食べるという行為を見直し、生活リズムや生活スタイルを改善する。さらに、それがダイエットにも繋がる方法についてです。
(マインドフルネスな生活リズムの整え方 Vol.1(後編)〜コミュニケーションが変わるとストレスが減る〜より続く)
前回はコミュニケーションが変わるとストレスが減るといった内容でお話させていただきましたが、今回は「食べること」についてお話させていただきたいと思います。
私たちにとって「食べること」は、“生きることそのもの”と言っても過言ではありません。1日3食、人によっては2食という人もいるとは思いますが、いずれにしても毎日食べていかないと人は生きていけません。当たり前のことですが、食べることは人が生きていくための基本中の基本なのです。
もちろん、食べることに関して、食べ物そのものやバランスのいい食事であるとか、なるべくいい食材を使った料理を食べるといったことも大事なことですが、それよりも大事にしていただきたいのは「食べ方」であると私は考えます。
飽食時代の私たちは、意外と食べ方については何も考えることなく食べていることが多いのではないでしょうか? そこで、改めてみなさんに問いかけたいのは「普段の食事をどんなふうに食べていますか?」ということ。今一度、ご自身の食べ方を見つめ直し、食べることを感じてみてもらいたいのです。
「どんなふうに食べるのか」を見つめ直すことは、普段の食べるリズムであるとか食生活のリズムを整えることにも繋がります。食事中にテレビを観ながら食べるという人もけっこういるのではないでしょうか? あるいはスマホをいじりながら食べているとか……。
ファミレスや定食屋に入ると、特に1人で食事している人だと7〜8割くらいがスマホをイジりながら食べているといった感じで、そんな光景が珍しいものではありません。これでは、ご飯を食べているのかスマホをイジっているのかわかりませんよね。そんな人たちに言いたいのです。「ちゃんと味わって食べていますか?」と。
「食べること」は、本来、私たちを生かしてくれるとても大切な行為です。しかし、多くの人は目の前にある食事に特に注意を払うこともなく、スマホを眺めながら機械的に流し込むように食べていると言っていいでしょう。食べ物には、どんな場所でどんな生産者がどのような苦労をして生産したのか、誰がどのような工夫をして調理し、料理として目の前に運ばれているのかなど、数え切れないほどのストーリーがあるはずです。そこに思いを馳せることもなく、味わうこともないままスマホを眺めながらただパクパク食べてしまっているのではないでしょうか?
私たちは、食材となる野菜や動物などの生きものから命をいただいています。そのお陰で命を繋いでいるのに、それが当たり前になりすぎてしまい好きなだけ食べている。結果、食べ物に対する感謝の気持ちが極めて薄くなり、機械的に流し込むように食べるだけになっているのです。
今回、食べることを見つめ直すためのトレーニングとしてオススメしたいのは、「マインドフルネス・イーティング(食べる瞑想)」というものです。これは、まさに「生きることそのものを見直すための練習」のひとつと言っていいでしょう。
生きることの根幹に関わる食事を改めて見つめ直すことで“生きている”ことを実感する。そこに立ち返ることで、忘れていた食べることに対する感謝の気持ちなども呼び覚ますことで、私たちは“生かされている”ことに気づくようになります。さらに、自分の身体に注意を払うことができるようになり、自分の身体のケアを隅々まで行き渡らせることができるようになれます。
例えば、「今日はちょっと食べ過ぎちゃったから、調子が悪くなっちゃった」とか、「腹八分目にしておいたから、調子がいいなあ」などと感じやすくなり、自分の身体との対話ができるようになります。そんな気づきの経験を重ねていくことで自然とダイエットにも繋がります。
今年の6月頃、NHKで「美と若さの新常識」という番組で、マインドフルネス・イーティング(食べる瞑想)が取り上げられました。食べる瞑想にはダイエット効果があるのではないかという研究結果を紹介したものです。
その研究内容というのは、チョコレート4粒を食べる瞑想の音声ガイドを聞きながらよく味わって食べるグループと、音声ガイドを聞かないで普通に食べるグループに分けて違いをみるというものです。
3粒目を食べ終えたところで、両グループに「4粒目を食べたいですか? 食べたくないですか?」と聞いたところ、音声ガイドを聞かないグループの人たちのほとんどが4粒目を食べました。しかし、音声ガイドを聞きながらゆっくり味わって食べたグループの殆どの人が、「3粒食べたらお腹いっぱいで満たされた」との理由で食べなかったのです。
なぜ、このようなことになるのか。それは、よく味わってゆっくり食べることにより、味覚も食欲も満たされて、必要以上に食べなくなるからです。そのことから、自然とダイエットに繋がっていくということがわかってきました。昔から腹八分目がちょうどいいと言われています。昔の人はよく言ったもので、普段の生活のプラスになる知恵のひとつと言っていいでしょう。
食べる瞑想をすることで、食欲について客観的に見る力がついていきます。食べながら、「本当にこれ以上、必要なのか?」といったことがわかるようになる。ついつい食べ過ぎていたけれども、「本当はこれくらいで十分なんじゃないか?」と気づくことができるようになるのです。
食べる瞑想では、ゆっくり食べます。満腹中枢は20分前後で刺激されるので、そんなに量を食べなくても食欲が満たされる状態を作りやすくなります。さらに、味わってゆっくり食べるということは、よく噛んで食べるということでもあります。唾液とよく混ざって、食べ物もより小さく咀嚼されていくので、胃腸の負担も少なくなり、吸収も良くなります。そういったことも合わさって、ゆっくり味わって食べるということは身体にとって、プラスに働くことばかり。続けていると、痩せていきやすくなり、自然とダイエットに繋がっていきます。
先ほど紹介したNHKの番組では、食べる瞑想を1年間続けた女性が10㎏程度痩せたという例を紹介していました。ゆっくり味わって食べるようにすると、目の前にある食事の3分の2くらいの量でお腹いっぱいになってしまうことから、リバウンドなく自然と自分の適正体重に近づいていけるのです。食べる瞑想は、やせ我慢をしたりストイックにダイエットしようとするものではなく、無理なく自然に痩せることができます。これこそがダイエットの理想の形で、食べる瞑想の最大のメリットでしょう。
大切なことは、自分が食べる適切な量に気づき、ちゃんと知っておくということ。つまり、“必要な分だけいただく”ようになることが目的です。これは、先ほど言ったように腹八分目の話と同じで、ごく当たり前のこととしてあったもの。飽食の時代では、それができない人があまりにも多くなってしまってしまい、肥満になってしまったり、成人病になる人の数が増えつづけています。食べる瞑想をすることで、もう一度、自分の食を見直してみるというのはいかがでしょうか?
(マインドフルネスな生活リズムの整え方 Vol.2(後編)〜食べる瞑想で食生活リズムを整える〜へ続く)
取材・文:國尾一樹
撮影:たつろう
撮影協力:東京マインドフルネスセンター