心と身体を休息させる方法として注目されるマインドフルネス瞑想。ストレスフルな毎日を過ごす現代のビジネスパーソンに向けた研修が海外だけでなく、日本の多くの企業でも取り入れられるようになっているという。
そんなマインドフルネス瞑想とは何なのか。そして、多くのビジネスパーソンに受け入れられている理由は何なのか。Rhythmアンバサダーでもあり、マインドフルネス瞑想のエキスパートでもある東京マインドフルネスセンター長・長谷川洋介さんが、ビジネスパーソンに役立つマインドフルネス瞑想について4回にわたって紹介します。
(『ビジネスパーソンのためのマインドフルネス瞑想』Vol.1 〜マインドフルネス瞑想が企業で注目される理由〜より続く)
前回、現代のビジネスパーソンにマインドフルネス瞑想が企業に受け入れられるようになった理由についてお話をしました。人手不足により、1人当たりのビジネスパーソンの仕事量は多くなり、スピードを求められています。しかもマルチタスク化していますから、働く上でかなり抑圧的と言いますか、つらい状況になっていると思います。
私もかつては会社員として働いた経験がありますが、どうしても日々の仕事がルーティン化しがちでしたし、マルチタスク化することで、グッと何か心が押し込められるような苦しい感覚に陥ることがよくありました。これもストレスのひとつだったと思います。
では、日々の仕事のなかで感じるストレスにどのように対処すればいいのでしょうか。マインドフルネスのディレクターという立場でお話させていただくと、まずは、ルーティン化しがちな仕事をいかにそうならないようにできるかといった視点を持つことが大事だ、ということです。
例えば今、目の前にある膨大な仕事を全部1人で処理をしないといけないのか、残業をしまくってまでやるべきなのかを判断する。あるいは、日程を調整し直してみようとか、1人では無理だから同僚にヘルプをお願いして分担してもらおうといったことを考えてみる。
これまでの仕事に対する視点を変えて、違ったアプローチをしてみるとか、アイデアを出してみる、違った受け答えの方法を考えてみるといったことが、現代のビジネスパーソンには必要なのではないかと感じています。
ひと昔前までは、自分がこの会社を支えているんだとか、この仕事ができるようになって初めて1人前と言えるとか、これは自分1人の仕事だからやれるだけやってやるといった気概でモーレツ社員的な考え方で仕事に打ち込むといったやり方が一般的だったと思いますが、今の時代、そういうやり方をしていては心も身体も持たないでしょう。
古い働き方の常識や習慣に倣うのではなく、もっとフレキシブルに対応する。冷静になって自分の力を分析しつつ、時間との兼ね合いで仕事量を決めていくようにするべきだと思います。その上で、無理なものは無理だと伝えることができるような対処法を素直に理解することが大事です。
つまり、自分にとって最善の方法をどう選択するのか。その力をマインドフルネス瞑想のトレーニングで培うことができるようになります。そういう力をぜひ、現代のビジネスパーソンには手に入れて欲しいというのが、私の願いです。
もはや、「自分がすべてやる!」といったスタイルで仕事をしていく時代ではありません。もうちょっと柔軟な発想で、周囲との繋がりを持つような働き方をしてくのがいいでしょう。自分1人で仕事を回しているのではないという、ひとつの“気づき”を得ることで仕事をするようにする姿勢が、これからのビジネスパーソンに求められるようになると思います。
無理なく仕事ができるようになると、精神的に圧迫されることが少なくなります。その結果、仕事の生産性も上がることでしょう。無理なものは無理だと伝える。これは、仕事から逃げるということではありません。自分の能力を超えていると冷静に判断できたのであれば、それをきちんと伝えることが大事なのです。
もちろん、自分の能力を超えた仕事を与えられても、そのストレスに打ち勝ってビジネスパーソンとして成長するということもあると思います。そこに向かってチャレンジしてみようという気持ちがあるのであれば、上司や同僚と相談しながらやってみてもいいと思います。
ただ、明らかに限界を超えていて1人では無理だという仕事であった場合、素直に上司に相談してみるとか、1人ではできませんと言えるように職場の環境を自分で変えていく必要があるかもしれません。それができない職場だと、心身共に潰れてしまう人がどうしても出てしまいます。
私は治療プログラムの一環として、心療内科に通う人たちをたくさん見てきましたが、みなさんは、今話したことと同じような悩みを抱えてしまったという人がとても多いのです。
最近では、働き方改革ですとか、ワークライフバランスではなく、ライフを先にした「ライフワークバランス」などといったことも言われるなど、人それぞれに合った多様な生き方をするための価値観を持ったほうがいいと言う人もいます。そんな考え方のなかで、マインドフルネス瞑想というのは、人が生きるということを見つめ直す作業の中心になってもいいモノだと私は思います。
マインドフルネス瞑想の基本的なコンセプトは、ひと言で言えば「今、ここに生かされている命を意識する」ということ。今、この瞬間に自分がやっていることに意識がシッカリと繋がっているということを感じ取ることなんです。ですから、人が生きていく上で、すべてのことに繋がっていると言っていいでしょう。
マインドフルネス瞑想を実践する目的は、ズバリ、「より良く生きる」ためにということです。“自分らしい自分”をもう一度、見つめ直して取り戻す。今、自分は何をして、どのように生きて、どのような最期を迎えたいと思うのかといったことを、ちゃんと自分で立ち止まって見つめ直すといった作業をすることでもあります。
自分の人生の時間なんて、実は人が思っている以上に短いものです。まだ先は長いと思っていては、ついつい惰性で生きてしまいがちです。でも、自分が本当にやりたいことは何なのか、何を求めているのかといったことをもう一度見直すことで、より良い人生になっていくのです。
では、「より良く生きる」ためには、何が大切なのか。それは、やはり“気づき”です。マインドフルネス瞑想のトレーニングを続けていると結局、そこに立ち戻ることになるのですが、何かに気づかないと「自分の生き方はこれでいいのかな?」と迷ったまま過ごしてしまいます。東日本大震災の惨状を目の当たりにして何かに気づいた人も多かったと思います。今、生きていられるのは“当たり前”ではないということに気づき、その上で、「じゃあ、今の瞬間をどう生きようか」といったことに立ち返ることができる。
最近はマインドフルネス瞑想のトレーニングをすることで仕事の生産性が上がるとか記憶力が良くなるといったことばかりがクローズアップされがちですが、それはすべて副産物なのです。本来は、今、この瞬間をどう生きようかといったことに気づくといったことの積み重ねが、より良く生きることに繋がっていく。つまり、自分のライフデザインをどうしていくのかといったことを考えることになるわけです。
仏教のある高僧にお話をお伺いする機会があったのですが、「“一寸先は闇”というのが仏教の世界である」とおっしゃっていました。何が起こるかわからない世界だから、次の瞬間、死んでしまうかもしれない。そんな覚悟を持って「今の瞬間をキラキラと輝かせて生きなさい」と。
そこで、「どうせ一瞬先は闇なんだから」と考えてネガティブに生きるのではなく、一寸先は闇だからこそ、今この瞬間を大切にして生きましょうというポジティブな考え方が仏教のコンセプトなのですが、それがマインドフルネス瞑想の根底にも流れているのです。
集中力を高めたいとか、仕事の生産性を上げたい。あるいは、それによってお金をいっぱい稼ぎたいとか、成果を挙げて周囲の人に認めてもらいたいといった我欲だけを求めていては、得るものは非常に少なくなってしまうというのが、マインドフルネス瞑想なのです。
どうしても最初は我欲のほうにばかり意識がいってしまいがちですが、実はそうではなく、もっと自然に則ったものであるということを理解した上でマインドフルネス瞑想を始めることをおすすめしたいですね。実は、そのほうがうまくいくし、近道にもなるということを忘れないようにしていただければと思います。
(『ビジネスパーソンのためのマインドフルネス瞑想』Vol.3 〜ストレスのメカニズムとマインドフルネス瞑想の本質〜へ続く)
取材・文:國尾一樹
撮影:たつろう
撮影協力:東京マインドフルネスセンター