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バブル期の「イタ飯」ブームから30年。当時は子供だった日本の大人はいま、“本物のイタリア料理”を食べているか?Vol.7(最終回)

バブル期の「イタ飯」ブームから30年。当時は子供だった日本の大人はいま、“本物のイタリア料理”を食べているか?Vol.7(最終回)

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バブル期の「イタ飯」ブームから30年。当時は子供だった日本の大人はいま、“本物のイタリア料理”を食べているか?Vol.7(最終回)

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フードライター&エディターの浅野陽子です。
 
1980年代後半のバブル期に起きた「イタ飯(めし)」ブームから30年あまり。パスタ、ピッツァ、カルパッチョなど、イタリアからやって来た料理であることを忘れるほど浸透し、日本の食卓にイタリア料理は欠かせなくなりました。「パスタは家と外で週2〜3回食べる」という人も少なくないと思います。
 
しかし筆者自身を含め、イタ飯ブームの当時、子供だった世代も中年以上になりました。食べ歩き好きの人も増えたいま、大人はこの30年で目を肥やし、「本物」と呼べるイタリア料理や食材をきちんと食べているでしょうか?
 
この壮大なテーマについて、イタリアの食のプロたちに「本物のイタリアンの選び方・楽しみ方」について取材し、シリーズで紹介します。過去の連載はこちらをご覧ください(第1回第2回第3回第4回第5回第6回

今回が最終回となります。シリーズの締めくくりにぴったりの、日本でのイタリア料理とワイン普及の第一人者であるジャーナリスト・宮嶋勲さんに、「本物のイタリア料理」についてお話を伺いました。


宮嶋 勲(みやじま・いさお)さん
1959年生まれ、京都出身。東京大学経済学部卒業後、1983〜1989年までローマの新聞社に勤務。以来、現在までイタリアと日本で、ワインと食についての執筆や講演を行なっている。
イタリアのエスプレッソ・ワインガイドの試飲スタッフや、ガンベロロッソ・レストランガイドの日本人初の覆面調査員も務める。『10皿でわかるイタリア料理』『最後はなぜかうまくいくイタリア人』(共に日本経済新聞出版社)、『イタリアワインマニュアル』(ワイン王国)など著書多数。2013年に「グランディ・クリュ・ディタリア最優秀外国人ジャーナリスト賞」を受賞。2014年にはイタリア文化の継続的発展に貢献した個人に与えられる「“イタリアの星勲章”コンメンダトーレ章」をイタリア大統領より授与。


 

食ブーム前夜に、イタリア映画の研究家を目指しローマへ


写真:映画『ローマの休日』の舞台になったローマの観光名所「スペイン広場」

宮嶋さんは1980年代初頭の日本でのイタ飯ブームが起きる前、国際的にもイタリア料理やワインが高い評価を受けていなかった時代に、イタリアに渡ります。

もともとイタリア映画が大好きで、イタリア映画史の研究家を目指したのがきっかけだったとのこと。しかし、ローマに住んで美食とワインに日々接するうち、映画から食の道に進むことに。計6年間ローマの新聞社に勤務。そして滞在中の80年代後半から、世界的なイタリア料理ブームが到来しました。

日本のイタリア料理界のトップシェフと呼ばれる料理人たちは、当時イタリアで修業中で、宮嶋さんと同世代。イタリアの食とワイン業界の強固な人脈も築き、宮嶋さんは帰国後に第一人者となって、現在も執筆や講演活動を続けていらっしゃいます。

生活の拠点は日本にあるものの、取材やワインのテイスティングで一年の1/3はイタリアに滞在し、現地で300食は食べているとのこと。


写真:在日イタリア商工会議所主催のワインセミナーで講師を務める宮嶋さん

宮嶋さんしか語れない、リアルなイタリア人の生き方

イタリアブームの夜明け前から、30年以上イタリア各州の食文化や慣習に触れてきた宮嶋さん。日本人が持つイタリア人の一般的なイメージは、「明るくておしゃれ、ちょっと時間にルーズで、食べることが大好き」ですが、宮嶋さんの著書を読むとさらに掘り下げた、笑ってしまうエピソードがたくさん紹介されています。


・計画は立てなくても最後はなんとかする(いまを生きることが大事なので、24時間以上先の予定は立てない。でも納期には必ず間に合わせる)

・仕事とプライベートは分けないようにする(ホテルや銀行のカウンターが行列でも、店員は自分のおしゃべりを続け、お客もその無駄話に参加する。仕事への自由さと情熱が、一流ブランドを生み出す要因にも)

・「好き、美しい」が、仕事でも物事の判断基準となる(ビジネスの宴会場を便利な近場でなく、主催者が美しいと感じた遠方の古城などにあえて設定する)

※『最後はなぜかうまくいくイタリア人』(日本経済新聞出版社)より一部抜粋


仰天する部分が多いものの、子供の頃から「何事もきっちり、真面目に」としつけられ、ちょっと疲れ気味の日本人は、爽快に感じてしまうのではないでしょうか?


写真:「人生における『寄り道』を大事にする」イタリア人(宮嶋さん著書より)

イタリアでは「食事をするためだけに、レストランに行かない」

さらに面白いのが食事に関するエピソード。宮嶋さんによれば、イタリア人にとって「食卓」とは、「食事をする行為以外にも、仕事や人脈作り、親しい人との交流、恋愛など人生の大事なことをほぼすべてを解決する場」だといいます。日本のように、食事会や宴会を「2時間できっかりお開きにする」という考え方は皆無で、イタリア独自のルールがあります。


・レストランを予約する際、名前と人数しか聞かれない(「その日はあなたのために席を開店から閉店まで空けておきます」という考えなので、お客は何時に来てもよい)

・イタリアでの食事は、短くて2時間、長くて5時間

・パーティーでは同じテーブルの全員と握手を交わしたのを確認してから着席。食事中は初対面でも共通点を見つけて会話をし続け、最後もまた全員で挨拶をして別れるのがマナー

※『10皿でわかるイタリア料理』(日本経済新聞出版社)より一部抜粋


「イタリア人はレストランに行くとき、その中に『食べる』という行為は5〜6割しか含まれません。食べながら会話し、交流を深めることが大事なので、黙々と食べてさっさと帰るのは、非常に失礼だと思われます。日本人が真似をしなくてもよいのですが、もしイタリアで仕事をしたいなら、慣れる必要があります」(宮嶋さん)


写真:イタリアで、「食卓」の役割とは「食べる行為は5〜6割にすぎず、あとは人生の大事なことを解決する場」

イタリア人が「世界一」と評価する日本人の繊細なイタリアン


宮嶋さんに最後に、今回のテーマである「日本人は本物のイタリア料理を食べているか?」について伺いました。

宮嶋さんの著書では、これまで当連載で書いてきた「イタリアならではの各地方の食の郷土性」や「ピッツァやスパゲッティーが戦後の日本に来て、元の形を変えてしまったこと」などは、当然のように触れられています。

イタリアの食に関する記述はそれ以外にも、「ローマの郷土料理・カルボナーラには、パルミジャーノとペコリーノ・ロマーノのどちらのチーズを使うか現地でも意見が分かれる」、「ジェノベーゼソースに最適なのは、ジェノヴァ・プラ地区産のバジリコ」、「ピッツァに使う小麦粉の配合はナポリでいまだに論議されている」など、究極にハイレベルな、本物のイタリア料理の定義が随所に書かれています。

そんな宮嶋さんから見ると、日本人はイタ飯ブームから何十年、何百年経っても、本物を食べる時など永遠に来ないのでは?と伺うと…


「そんなことはまったくありません。私が述べたことは現地のやり方であって、それを日本でそのまま再現する必要はないのです。また私はイタリアのトップのワイン生産者たちが来日した際、日本各地のイタリアンレストランを一緒に食べ歩きますが、みんな口を揃えて『日本人の作るイタリア料理のレベルは世界一』と言います。

新鮮な食材を使った、繊細でエレガントな日本のイタリアンに、世界中の一流イタリアンを食べ尽くしている彼らですら、感激してしまうのです」と、意外な答えが返って来ました。


写真:イタリア人も来日して驚く、日本の繊細でハイレベルなイタリア料理(「イル・ギオットーネ京都店」の前菜、「鯛のカルパッチョ 瞬間スモークで」)

宮嶋さんの考える「本物のイタリア」は日本にもある

さらに宮嶋さんは続けます。

「また今回のテーマである『本物=イタリア本国』の料理をどうしても食べたいのなら、格安航空券でイタリアに飛んでしまった方がいい。イタリアでは一食5000円も出せばおいしいものが食べられます。一週間いれば、日本で数万円の高級イタリアンを食べ続けるより、よっぽど安く上がるでしょう(笑)」


写真:現地の味はイタリアで、日本では日本人の作るイタリア料理を

「私が初めてイタリアに行った30年前、イタリアへの往復チケットは80万円もかかっていましたが、10万円台でも行けるのです。これだけイタリアとの距離が近くなったいま、現地の味を日本で忠実に味わおうとすることには、あまり魅力を感じません。それよりも丁寧な感性で作った、日本人しか作れない味こそが、本物のイタリア料理であり、日本でイタリアンを味わう醍醐味なのではないでしょうか?」(宮嶋さん)

この言葉で1年間書いてきた、本連載に対する答えを最後にいただけた気がします。宮嶋さん、ありがとうございました。そして長らく拙稿をお読みくださった読者のみなさま、本当にありがとうございました。イタリア料理を愛するすべての方に、これからもたくさんのおいしい出会いと感動がありますように。Buon Appetito!

協力:ジャーナリスト・宮嶋 勲/イル・ギオットーネ京都店

取材&文・写真:浅野陽子

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